手のひらの上に錠剤を乗せたまま、惚けたように永遠を見つめてしまう透馬は、またしても彼の動作を目で追っていた。机の上に置いていたペットボトルのキャップを開けてから、透馬が座っている席の、同じく机の上に、キャップのないペットボトルを静かに置く永遠。開けてと頼んでもいないのにすぐに飲めるように準備してくれた永遠のさりげない気遣いに、透馬の緩み切った心はぐらぐらと大きく揺れ動いた。体調が優れていないせいで、吊り橋効果のような心理現象が起きているのかもしれないが、透馬は永遠に惚れ込む未来しか想像できなかった。

「こんなことまでされたら普通に好きになるし、しかもこれって普通に間接キスじゃん」

「……嫌なら飲むな」

「待て待て待て、嫌じゃない。飲む、飲むから。凄く助かってるから。ありがとうすぎるから」

 早々にペットボトルを回収しようとする永遠よりも先に慌ててそれを掴み取り、その勢いのまま錠剤を口に入れて水で流し込む。一般的なサイズよりも更に小さいサイズのペットボトルだ。永遠が飲んだことで量はラベルよりも下であったために、なかなか図太い透馬は遠慮もせずに全部を飲み干してしまった。温くなりかけていたが、まだ多少は冷えていた水が火照った身体に染み渡っていく。頭も気休め程度に冷えたように感じられた。効果はすぐには表れないだろうが、薬を飲んだという行為自体が透馬を少しばかり落ち着かせたかのようだった。

 空になったペットボトルを机の上に置いた透馬は、三度感謝を告げて頭痛薬を永遠に返した。その際、偶然でも指先などは触れなかった。一錠だけ減った薬を受け取り鞄に戻した永遠が、当然のように飲み干され空っぽになった容器を回収しようとするのを、伸ばされた手の行き先だったり永遠の視線だったりを見て察した透馬は、またしても先を越されまいとすかさず手に取った。