この私立青薔薇学園では、定期試験が行われる度に、成績上位10名の名前と総合点数の順位表が、廊下の掲示板に貼り出される。…らしい。

僕はまだ入学したばかりだから、実際にその順位表を目にしたことはないが。

加那芽兄様が在学中は、入学してから卒業するまで、常に、毎回加那芽兄様が学年首位を維持していた。…と、聞いている。

しかも、総合得点は毎回満点で。

加那芽兄様本人は、別に大したことではないと、けろっとしていたそうだけと。

そのような加那芽兄様の偉業を聞かされて、僕は「さすが」と思ったものだ。

僕の成績なんて、加那芽兄様の足元にも及ばないことは分かっている。

毎回学年首位、しかも総合満点なんて、とてもじゃないけど不可能だ。

けれど、僕は尊敬する加那芽兄様に、少しでも近づきたい。

加那芽兄様が成し遂げたことを、自分も…と。

そう思って、あわよくば学年首位を目指して、試験勉強に取り組んでいる次第である。

しかし、「はい。学年首位を狙ってます」と自ら宣言するのは…なんて言うか、おこがましいような気がして。

それに、高らかに宣言して、それで学年首位を取れれば良いけど、取れなかった時恥ずかしいじゃないですか。

だからあくまでこの目標は、自分の心の中だけに留めておこうと思う。

「そっかー。頑張ってね、小羽根君」

幸い久留衣先輩は、それ以上突っ込んで聞いてこなかった。

頑張ってねって…。久留衣先輩も頑張ってくださいよ。

「芸術の研究をしてる場合じゃないですよ。少しでも試験勉強を…」

「そうだな、後輩君。君の言うことは正しい…。まるで、口うるさい学年主任の先生のようだ」

天方部長、喧嘩売ってます?

「だがな、人間、息抜きってのも大切だと思うんだよ。教科書ばっかり読んでたら息が詰まる。そうだろ?試験勉強の合間に楽しい部活動の時間を設けることで、心身のバランスを…」

「バランスも何も、天方部長は全然勉強してないじゃないですか」

「ド直球で辛辣!」

バランスを取るどころか、部活動に偏りまくってますよ。

「畜生…。こいつ、割と最近遠慮なく言いたいこと言うようになってきたな…」

ぶつぶつ、と呟く天方部長。

先輩方の操縦に慣れてきたってことでしょうかね。こんなことに慣れたくありませんでしたけど。

「よし、分かった…。じゃあ、明日から!明日から真面目に試験勉強するから、それで許してくれ」

典型的な、「明日から本気出す」思考。

そういうこと言う人は、明日になっても何だかんだ理由をつけて頑張らないんですよ。

試験で赤点取って留年して、来年僕と同じ学年になっても知りませんからね。