でも…弦木先輩と言えば…。

「どうです。俺の力作は」

「ひぇっ…」

スケッチブックいっぱいの…。…棒人間。

この間見た時よりも、更に増量している。

最早ホラー。

この絵、夜中に見たら悲鳴を上げますよ。

「つ…弦木先輩は…他に描くものはないんですか?」

「?描いてますよ、ほらへのへのもへじ」

弦木先輩はスケッチブックを捲り、今度はへのへのもへじがびっしり敷き詰められたページを見せてくれた。

ひぇっ。

こっちも不気味ですよ。ゲシュタルト崩壊起こしそう。

「先日より、ちょっと上手くなったと思いません?」

何故ドヤ顔?

棒人間とへのへのもへじでドヤらないでください。

「まぁ…何でもこれだけ描いてたら、上手くなるでしょうね…」

どうしてその情熱を、他のモチーフに注いでくれないのか。

下手でも良いですよ。他のモチーフに挑戦しませんか?

何だろう…。芸術研究部にクラスチェンジしてから、先輩方の努力の矛先が微妙に横道に外れてる気がする…。

…僕もそれほど絵が上手い訳じゃないから、偉そうなことは言えませんけどね。

「で、そう言う小羽根さんは?先日の…えぇと、『ルティス帝国英雄伝』の絵、進捗状況はどうですか?」

え、僕?

「僕は…その…」

「また何か大作を描いたのか?ちょっと見せろよ」

「あ、ちょ、」

天方部長は、あろうことか僕の学生鞄をゴソゴソと漁り。

鞄の中から、勝手にスケッチブックを取り出した。

ちょ、勝手に触らないでくださいよ。それには僕の下手くそな絵がいくつも。

「…ってあれ?全然進んでねーじゃん」

「…そうですね…」

残念ながら、ここ数日はスケッチブックを開いていない。

従って、絵の進捗状況にも全く変化がない。

…残念でしたね。全く進んでなくて。

「…サボりか?貴様、後輩の分際で。芸術研究部としての自覚があんのか!?」

「先輩ハラスメントはやめてください。僕は元々芸術研究部に入部した覚えはありません」

「何だと!?この後輩君、なかなか生意気なことを言いやがる」

それは済みませんね。

でも、僕にとっては、呑気に芸術を研究している先輩方の方が気がかりですよ。

「最近は、絵よりも勉強に集中してるんです」

「え、勉強?」

「だって、そろそろ定期試験じゃないですか」

「…」

僕がそう言うと。

教室にいた先輩方、揃ってキョトンとしてこちらを見つめていた。

…この先輩達、大丈夫か?