筆を持って…何をしてるんだろう？

「えぇと…。何やってるんですか？」

「ご覧の通り、部活だよ」

「…部活…」

僕、よく知らないんだけど。

料理に筆を使うことってあるんですか？

しかし。

テーブルの上の先輩達の手元を見ると、それぞれ、画用紙やスケッチブックを広げていた。

…？？とても料理をしているようには見えませんけど…。

…それどころか。

「李優、見て見てー。これクーピーで描いたんだー」

「おー、良かったな…。…しかしクーピーなんて小学校以来だな」

僕も久し振りに見ました。

クーピーって皆知ってるだろうか。小学生が稀によく使う、鉛筆タイプのクレヨンみたいな…。

アレを使って、小学生の必需アイテム、自由帳に絵を描いていた。

「久留衣先輩…何描いてるんですか？」

「見ても良いよー。ほら」

「…！上手い…！」

自由帳にクーピーで、物凄く上手な佐乱先輩の似顔絵を描いていた。

クーピー特有の優しい色使いで、写実的で繊細な絵。

非常に上手い。

加那芽兄様のはっきりとした筆使いとは、また違うベクトルの上手さ。

羨ましい…。僕もこんな風に加那芽兄様の似顔絵を描けたら、恥ずかしくなかったものを…。

「変なところで変な特技があるんだよな、こいつ」

佐乱先輩は、せっせとクーピーを動かす久留衣先輩を手で指した。

いや…充分立派な特技だと思いますけど…。

「クーピーじゃなくて…ちゃんと絵筆で水彩画とか描いたら、凄く良い作品が出来るんじゃないでしょうか」

この優しい筆使い(クーピー使い)なら、多分水彩画で映えるんじゃないだろうか。

是非見てみたいものだ。

…しかし。

「無理」

ふるふる、と首を横に振る久留衣先輩。

「何で無理なんですか？」

「私、クーピー以外だと絵、描けないから」

…何で？

クーピーで描けるのに、何でクーピー以外だと無理なんですか。

「…これって冗談じゃなくて？本当にそうなんですか？」

「あぁ。以前萌音が美術の授業で描いた油絵を見たことがあるが、ムンクの代わりに俺が叫んだ」

どういう意味ですか。

よ、よく分からないけど…叫ぶほどの会心の出来だったんですね？

クーピーでこんなに上手いから、きっと水彩画でも上手いと思ったのに…。そういう訳ではないらしい。

「まぁ、かく言う俺もそんなに絵心ないんだけどな…」

と言いながら、佐乱先輩は鉛筆で描いたデッサンを見せてくれた。