自分の部屋に戻るなり、僕は画用紙とスミレの花を放り出して、机に突っ伏していた。

一人で、半泣きで不貞腐れていたのである。

僕には到底、あんな立派なプレゼントは用意出来ないし。

精々、口で加那芽兄様に「誕生日おめでとうございます」と言うだけ。

しかし、加那芽兄様は来客の対応に忙しく、「誕生日おめでとう」を言う暇もない。

パーティは夜遅くまで続くのだろうし、終わる頃には誕生日が過ぎて、明日になってしまうことだろう。

…誕生日が終わってから「おめでとう」って言われても、全然嬉しくありませんよね。

心配する必要はない。あんなにたくさんのお客さんに祝福されているのだ。

加那芽兄様だって、僕のような子供に祝われたって何にも嬉しくないだろう。

そう思うと、何だか自分が物凄く見当違いなことをしているような気がして…。



…やがて僕は、机に突っ伏したまま眠っていた。

目を覚ましたのは、誰かに背中を優しく叩かれたからである。

「…小羽根。こんなところで眠ってたら風邪を引くよ」

「…ふぇ…?」

目を擦りながら顔を上げると、そこにはタキシード姿のままの加那芽兄様がいた。

…え…。

「加那芽…兄様?何でここに…。誕生日パーティは…?」

「もう終わったよ」

終わった?

机の上に置いていた時計を見ると、時刻は既に深夜の12時を回っていた。

あ…。いつの間にか、加那芽兄様の誕生日、終わってしまった…。

「来るのが遅くなって済まなかったね。小羽根がパーティ会場からいなくなってから、ずっと心配していたんだけど…」

えっ。

加那芽兄様、僕がいなくなったことに気づいてたんですか?

てっきり、誰も気づいていないものだと思っていたのに。

「大丈夫かい?様子がおかしかったから、体調が悪くなったんじゃないかと心配で…」

「い…いえ、そんなことは…」

「…泣いたのかい?」

えっ?

加那芽兄様は、僕の瞼にそっと指先を這わせた。

「目が腫れてるよ」

「うっ…。な…泣いてないです…」

「誰が小羽根を泣かせたんだい?」

だ…誰も。

強いて言うなら…加那芽兄様が原因である。

「ほ、本当に何でもないんです」

僕は腫れぼったい両目をゴシゴシと擦って、何でもない風を装った。

「だ、大丈夫ですから。何でもないです。本当に…」

「…そう。…ところで小羽根、それは?」

え?

加那芽兄様が指差したのは、僕が投げ出していた似顔絵の画用紙と、萎れてしまったスミレの花束だった。