そして、迎えた加那芽兄様の誕生日。当日。
僕が用意したのは、例の加那芽兄様の似顔絵と。
それから、中庭で摘んできたスミレの花にリボンを巻いただけの、小さな花束。
何でスミレを選んだかというと、以前加那芽兄様が「紫色の花が好きだ」と言っていたのを覚えていたからである。
中庭で摘んできた雑草みたいな花束と、下手くそな似顔絵…。
これが、7歳だった僕が用意した、精一杯の「誕生日プレゼント」だった。
…やっぱり、今思い出すと恥ずかしい。
だが、その当時の僕はあくまで真剣で、「加那芽兄様が喜んでくれると良いなぁ」なんて思っていた。
あとは、用意したプレゼントを加那芽兄様に渡すだけ。
…だったのだが。
誕生日当日になっても、その機会は、なかなか巡ってこなかった。
というのも、その日は多くの来賓を屋敷に招いて、加那芽兄様の誕生日パーティが開かれたから。
ピシッとしたタキシードに身を包んだ加那芽兄様は、今日の主役のはずなのに、誰よりも忙しそうだった。
やって来るお客さん一人一人に声をかけ、にこやかに挨拶し、接待していた。
こんなにたくさんのお客さんがいるのに、彼らの顔も名前も立場も、完璧に覚えている加那芽兄様に、素直に感心した。
その日の加那芽兄様は、お客さんの接待で忙しく、とてもじゃないが僕に構っている暇はなかった。
僕は、稚拙なプレゼントを後手に隠す用にしながら、遠目から加那芽兄様を眺めていた。
お客さんはひっきりなしに加那芽兄様に話しかけ、加那芽兄様のにこやかに答え、楽しそうに談笑していた。
それが、パーティのホストである加那芽兄様の役割だった。
偉い人にとっては、誕生日でさえ、自分の生まれた日を純粋に祝福する日ではなく。
これも家の為の「仕事」の一つなのだと、初めて知った。
…そうとも知らず、馬鹿みたいに無邪気に、加那芽兄様の誕生日をお祝いしたいなんて…。
忙しそうに来客の対応をする加那芽兄様を眺めながら、僕は自分が恥ずかしくなった。
大勢のお客さんが、代わる代わる加那芽兄様に話しかけていたけれど。
当然ながら、分家の養子であり、子供でもあった僕に構う人間は、一人もいなかった。
僕は彼らにとって、ただの景色の一部でしかないのだ。
そして…今だけは、加那芽兄様にとっても。
…。
何だか凄く…場違いなような気がして、居た堪れなくなって。
僕は、用意してきた似顔絵とスミレの花束を隠すようにしながら、そっとパーティルームを抜け出した。
勿論、そんな僕を引き留める者はいなかった。
皆自分のやるべきことに忙しいのだ。僕に注意を払う人間なんているはずがない。
行く宛もなく、パーティルームの隣にある小さな控え室に向かった。
てっきり誰もいないと思っていたが、そんなことはなかった。
控え室にも使用人が何人もいて、たくさんの荷物を整理していた。
…何だろう?これ…。
リボンのついたラッピングバッグや、お洒落なブランドロゴ入りの紙袋がいっぱい…。
「…あの…これって…?」
思わず、近くにいた使用人の一人に声をかけた。
忙しそうにテキパキと動いていた使用人が、煩わしそうにこちらを向き。
「お客様からいただいた、加那芽坊ちゃまの誕生日プレゼントですよ」
と、素っ気なく答えた。
…えっ…。
控え室を埋め尽くすほどの、たくさんの荷物。
これらの全部が、加那芽兄様に送られた誕生日プレゼント?
僕が用意したのは、例の加那芽兄様の似顔絵と。
それから、中庭で摘んできたスミレの花にリボンを巻いただけの、小さな花束。
何でスミレを選んだかというと、以前加那芽兄様が「紫色の花が好きだ」と言っていたのを覚えていたからである。
中庭で摘んできた雑草みたいな花束と、下手くそな似顔絵…。
これが、7歳だった僕が用意した、精一杯の「誕生日プレゼント」だった。
…やっぱり、今思い出すと恥ずかしい。
だが、その当時の僕はあくまで真剣で、「加那芽兄様が喜んでくれると良いなぁ」なんて思っていた。
あとは、用意したプレゼントを加那芽兄様に渡すだけ。
…だったのだが。
誕生日当日になっても、その機会は、なかなか巡ってこなかった。
というのも、その日は多くの来賓を屋敷に招いて、加那芽兄様の誕生日パーティが開かれたから。
ピシッとしたタキシードに身を包んだ加那芽兄様は、今日の主役のはずなのに、誰よりも忙しそうだった。
やって来るお客さん一人一人に声をかけ、にこやかに挨拶し、接待していた。
こんなにたくさんのお客さんがいるのに、彼らの顔も名前も立場も、完璧に覚えている加那芽兄様に、素直に感心した。
その日の加那芽兄様は、お客さんの接待で忙しく、とてもじゃないが僕に構っている暇はなかった。
僕は、稚拙なプレゼントを後手に隠す用にしながら、遠目から加那芽兄様を眺めていた。
お客さんはひっきりなしに加那芽兄様に話しかけ、加那芽兄様のにこやかに答え、楽しそうに談笑していた。
それが、パーティのホストである加那芽兄様の役割だった。
偉い人にとっては、誕生日でさえ、自分の生まれた日を純粋に祝福する日ではなく。
これも家の為の「仕事」の一つなのだと、初めて知った。
…そうとも知らず、馬鹿みたいに無邪気に、加那芽兄様の誕生日をお祝いしたいなんて…。
忙しそうに来客の対応をする加那芽兄様を眺めながら、僕は自分が恥ずかしくなった。
大勢のお客さんが、代わる代わる加那芽兄様に話しかけていたけれど。
当然ながら、分家の養子であり、子供でもあった僕に構う人間は、一人もいなかった。
僕は彼らにとって、ただの景色の一部でしかないのだ。
そして…今だけは、加那芽兄様にとっても。
…。
何だか凄く…場違いなような気がして、居た堪れなくなって。
僕は、用意してきた似顔絵とスミレの花束を隠すようにしながら、そっとパーティルームを抜け出した。
勿論、そんな僕を引き留める者はいなかった。
皆自分のやるべきことに忙しいのだ。僕に注意を払う人間なんているはずがない。
行く宛もなく、パーティルームの隣にある小さな控え室に向かった。
てっきり誰もいないと思っていたが、そんなことはなかった。
控え室にも使用人が何人もいて、たくさんの荷物を整理していた。
…何だろう?これ…。
リボンのついたラッピングバッグや、お洒落なブランドロゴ入りの紙袋がいっぱい…。
「…あの…これって…?」
思わず、近くにいた使用人の一人に声をかけた。
忙しそうにテキパキと動いていた使用人が、煩わしそうにこちらを向き。
「お客様からいただいた、加那芽坊ちゃまの誕生日プレゼントですよ」
と、素っ気なく答えた。
…えっ…。
控え室を埋め尽くすほどの、たくさんの荷物。
これらの全部が、加那芽兄様に送られた誕生日プレゼント?