…入学式の後。

僕は真っ直ぐ家には帰らず、そのまま校舎に残った。

教室での説明は終わったのだけれど、この後、部活動に入りたい新入生の為に、部活動説明会というのが開かれるそうだ。

この説明会は自由参加で、既に興味がある部活動があったり、何となく入る部活を探している生徒の為に。

この学校にはこんな部活があって、こんな活動をしているのだ、という説明会が開かれる。

青薔薇学園では、部活への加入は任意で、入りたければ入れば良いし、入りたくなければ入らなくても良い。

もし入りたい部活が複数あるなら、兼部も可能。

帰宅部が良ければ、帰宅部でも良し。

そこはあくまで、本人の自由であるらしい。

僕も色々と考えて、部活動に参加するべきか、入るならどの部活にするか、など検討したのだが…。

部活動には参加せず、放課後は真っ直ぐに家に帰って、勉強に集中するべきか。

それとも部活動に参加して、勉強以外の活動にも注力するべきか…。

あれこれ検討して、加那芽兄様にも相談してみたところ。

「説明会に参加して、興味がある部活動があれば参加すれば良い」との助言をもらった。

その通りである。

説明会に参加して、入りたい部活が見つかれば入るし。

そうじゃなかったら、無理に入る必要はない。

そこで、僕は加那芽兄様のアドバイスに従って、こうして部活動説明会に参加することを決めた。

まだ正式に入るかどうかは決めていないけれど、僕が興味があるのは、加那芽兄様は在学中に所属していた美術クラブだ。

幼い頃から、類まれな絵画の才能がある加那芽兄様は、この美術クラブに所属し。

高校生ながら、様々な絵画コンクールで金賞や銀賞、果てはグランプリまで獲得されたそうだ。

進学の際は、いくつもの美術大学から声をかけられたとも聞いている。

僕にはとてもじゃないが、加那芽兄様のような才能はない。

でも、やはり加那芽兄様が所属していた部活には、特別な興味があった。

僕でも入れそうだったら入ろうかな、とも思っていた。

加那芽兄様は、自分を倣う必要はないと言ってくれているけれど…。

僕自身は、少しでも、尊敬する加那芽兄様に近づきたかった。



…それなのに。

僕の運命は、僕自身が全く予想していない方向に周り、加速していくことになる。

「えぇっと…説明会の会場は…」

「もし…もし、そこのお兄さん」

「…!?」

声をかけられたことに気づき、声のした方向を振り向くと。

…柱の陰から、こそっと顔を覗かせて、怪しく手招きをする、謎の人物と目が合った。