…ある日の放課後。調理実習室にて。

「やべー!宿題終わんねぇぇ!」

「口を動かしてないで、手を動かしてください」

「…ったく情けない奴らだ」

上から、天方部長、弦木先輩、佐乱先輩の順で言った。

それから、久留衣先輩が、ちょいちょい、と佐乱先輩の制服の裾を引っ張った。

「ねぇねぇ、李優。ここはなんて書けば良いの?」

「あ?えぇと、見せてみろ…。…あぁ、ここは、このグラフの結果をまとめてだな…」

「なるほどー」

「おいコラ!ズルいぞ!彼女特権で教えてもらいやがって。自分にも教えてくれ!」

「自分でやれ」

彼女以外には塩対応の佐乱先輩だった。

…えーと…。それは良いんですけど…。

…これ、一体どういう状況なんですか?

放課後になったから、いつも通り調理実習室に来てみたら。

料理研究部の先輩達は、椅子に座って腕組みをしている佐乱先輩以外、全員真剣な顔でシャーペンを持ち、机に向かっていた。

とても…料理をしているようには見えませんが。

「あの…先輩方。部活動は…?」

「ねぇねぇ李優、ここは?」

「うん?見せてみろ…。…あぁ、ここはこっちの資料Bを参照して…」

…僕の質問、華麗にスルーされている。

誰かまともに僕の話を聞いてください。

「李優君、自分にも教えてくれ!ここなんて書けば良いの!?」

「うるせぇな…。って、お前まだそんなとこやってるのかよ。まだ2ページ目?遅っ…」

「ふっ。俺はまほろさんより速いですよ。なんと、今3ページ目の頭ですからね」

「お前も大して変わらないじゃねぇかよ。威張るな」

2ページとか、3ページとか…。

何か書いてるんですか?ちょっと、見ても良いかな…。

誰も相手にしてくれないし…。

「萌音はね、4ページまで頑張ったよー。李優、褒めて」

「あー、はいはい。偉いな」

「えへへー」

唐突な惚気を披露していく。

…よそでやってくれないかな。それ…。

「…って、褒めるのは全部終わってからだろ。先に全部終わらせろ」

「うん、任せてー」

カリカリとシャーペンを動かす、先輩一同。

「畜生、目の前でノロケやがって…」

「ご馳走様でしたって感じですね」

本当ですね。

まぁ、仲良さそうで何よりですね。

…そろそろ、僕の存在に気づいてもらっても良いでしょうか。

ずっと無視されていて、さっきから地味に傷ついてるんですけど?