私立青薔薇学園。

この学校が、僕が今日から通う高校である。

入学式は恙無く行われた。

多くの入学生の父兄が入学式を見に来ているのに対して、僕には誰一人、入学式に来てくれる家族はいなかった。

僕が寂しがるのではないかと、昨日、志寿子さんが「私が代わりに見に行きましょうか?」と申し出てくれたのだが。

僕はそれを断った。

志寿子さんだって忙しいんだし、それに、こういうことは今回が初めてじゃない。

寂しくないと言えば嘘になるが、でも、僕はもう、こういうことには慣れている。

それに、今日の僕は寂しさよりも、緊張の方が勝っていた。

新しい学校に入学する緊張、と言うより。

かつて、加那芽兄様も通ったこの学校に、自分もやって来たのだと思うと。

加那芽兄様の名前に恥じないよう、常に気を引き締めて。

いついかなる時も、他のクラスメイトの模範となるよう心掛けながら過ごさなくてはならない。という緊張感である。

プレッシャーは感じるけれど、それ以上に、加那芽兄様に恥じない自分になろう、という決意の方が強かった。

かつて加那芽兄様がこの学校に在籍中の頃、常に成績は学年どころか、全校生徒の中でトップ。

どころか、全国模試でも、どの科目でも常にトップ3に入っていたそうだ。

更に成績優秀な交換留学生として、短期間ではあるが、海外留学も経験されていると聞いている。

その他にも、高校生ながら、ありとあらゆる方面の資格を取得したとか…。

加那芽兄様が高校生の時に打ち立てた、数々の偉業を聞いて、随分気後れしたものだ。

果たして自分が同じ歳になった時、加那芽兄様と同じことが出来るのだろうか、と。

勿論、凡人の僕では、加那芽兄様に張り合うことなど到底出来るはずがないことは分かっている。

加那芽兄様自身も、「自分に倣う必要はない」と言ってくれている。

でも、少なくともみっともない真似をして、加那芽兄様の恥になるようなことだけは、したくない。

…やっぱり、気を引き締めて学校生活に臨まなくては。

決意を新たに、入学式を終え、各クラスの教室に移動し。

そこで簡単な自己紹介と、明日から始まる授業の教科書などの配布物を受け取り。

学校生活の決まりや注意事項などを説明され。

一通りの説明が終わった後、今日はこれで解散となった。