でも、やっぱり僕が一番好きなのは。

「勿論、この絵も素敵ですけど…。やっぱり、僕は加那芽兄様の描いた絵が一番好きです」

「…まったく、可愛いことを言ってくれるね」

「お世辞じゃないですよ?」

本当にそう思ってますからね。

僕達がいる無悪の屋敷には、部屋中至る所に油絵が飾ってある。

その全てが、加那芽兄様の描いたものである。

加那芽兄様は幼い頃から、類まれな絵画の才能に恵まれていた。

そんな加那芽兄様の、素晴らしい絵を眺めながら育ったものだから。

僕にとっては、どんな著名な名画よりも、加那芽兄様の絵の方がずっと親しみがある。

加那芽兄様の絵が素晴らしいと思う反面、この絵は加那芽兄様が今の僕より遥かに幼い頃に描いたものなのだ、と思うと。

何と言うか、虚しい劣等感を感じる。

僕には、とてもじゃないけどあんな素晴らしい絵は描けないよ。

加那芽兄様を倣って、絵の練習をしたりもしたんだけどな…。

それなのに、兄様本人は。

「お褒めに預かって光栄だけどね、私が手慰みに描いた絵なんて、何ほどのものでもないよ」

当たり前のように謙遜する。

もっと自慢すれば良いのに。あんなに凄い絵を描けるんだから…。

しかも。

「それより私は、小羽根の創作物の方が好きだね」

…なんて言い出す始末。

僕も加那芽兄様に倣って、絵を描いたり…ちょっと書き物をしてみたりするけれど。

僕の作品なんて、加那芽兄様の足元にも及ばない。

それなのに、兄様はというと。

「小羽根の作品は心がこもってるからね。本当に見る者の心を打つ作品は、技量の巧拙は関係ないんだよ」

凄く上手な褒め方をしてくれてありがとうございます。

でも、僕の絵が下手くそである事実に変わりはありませんからね。

「最近は、何か書いたりしてないのかい?」

「そうですね…。そういえば…」

新しい学校生活が始まって、料理研究部に所属して、毎日それなりに忙しくて…。

あんまり、趣味に時間を費やしてなかったな…。

「それは残念だね。私は小羽根の創作物は何でも好きなんだけどな…」

「そんなこと…」

「小羽根が小学生の時に描いてくれた、私の似顔絵なんて、金の額縁に入れて客間に飾ってるんだけど…」

「今すぐ撤去してください…」

なんてことをしてるんですか。せめて自分の部屋に飾ってください。

それを見せられた、お客さんの反応が怖いですよ。