…そうだった。

この間の日曜日…スイーツビュッフェに持っていくクッキーとカップケーキと、ティラミスを作ってた時…。

厨房に立っている僕の姿を…志寿子さんに、何枚も隠し撮りされてたんだった。

あぁ…あの写真、回収して証拠隠滅するつもりだったのに。

うっかり失念して…。結局、加那芽兄様の目に入ることに…。

…何だろう。自分の中二病ノートを親に見られた時って、こんな気持ちなんですかね。

僕は中二病ノートを…書いたことないから分かりませんけど…。

「エプロン姿で、キッチンに立つ小羽根の姿…。あの必死で真剣な顔の愛おしいこと。思わず写真データをもらって、拡大印刷して部屋に飾ったくらいだよ」

うっとりと語る加那芽兄様。

そうですか。今度加那芽兄様が出張で留守にした時に、勝手に部屋に入ってその写真を回収しておきますね。

回収して、そして廃棄します。

「次の機会があったら、写真ではなく動画を撮影するように頼んでおいたよ」

そうですか。

今度厨房に立つ時は、入り口の鍵を閉めておきますね。

カメラなんか構えられてたら、気が散りますよ。

「唯一残念なのは、あの時小羽根が作ったというデザートを、口にすることが出来なかった点だね」

「それは…。仕方ありませんよ。あれ、作ったのはもう何日も前でしたから…」

とっくに、全部消費してしまった。

先輩方が全部食べてくれましたよ。…あんなに不味かったのに。

「完成したお菓子の写真も見せてもらったよ」

「う…。見ないでくださいよ…」

思い出す。あの不格好なチョコチップクッキーと、カップケーキを。

ティラミスだけは、多少マシだったけど…。

あの不格好なチョコチップクッキーに比べたら、今僕の目の前にある加那芽兄様のお土産のクッキーは、まるで別次元の食べ物である。

「…呆れたでしょう?…全然…上手に出来なくて…」

あの写真を見たなら、きっと加那芽兄様も失望したことだろう。

初めてのことだろうと、何でもそつなくこなす加那芽兄様にとっては。

何だこの程度か、と落胆したに違いない。

それなのに。

「呆れる?どうして?私が小羽根のすることに、呆れたり失望したりしたことが一度でもあったかい?」

加那芽兄様は、逆に僕にそう聞き返した。

「そ、それは…」

…ない、ですね。…一度も…。

「小羽根はいつだって何だって、いつも真剣に物事に取り組むからね。結果の良し悪しはさておき、何事も真剣に取り組む小羽根の姿勢は、何よりも価値があることだと思うよ」

「…」

「真剣な努力は、何より貴重な経験になるんだよ。覚えておくと良い」

「…はい…」

さすがは加那芽兄様。

何だか…物凄く良いことを言って励ましてくれてる…ような気がするけど。

…結局、僕がお菓子作りに失敗したという事実は変わりませんよね?