加那芽兄様とのお喋りは続く。

「それで、小羽根。新しい学校はどうだい?」

「…あ、えぇと…」

「もう慣れた?それとも、まだ戸惑うことの方が多いかな」  

そのことが心配だったらしく、加那芽兄様は不安そうな面持ちだった。

「戸惑うことは多いですけど…。でも、少しずつ慣れてきてますよ」

「それなら良いけど…。…クラスメイトとは?いじめられたりしてないかい?」

「大丈夫ですよ。そんなことはありませんから」

クラスメイトは皆、親切にしてくれてますよ。

「そうか…」

何やら思案顔の加那芽兄様。

…本当に大丈夫ですよ。嘘はついていませんからね。

「…そういえば、料理研究部に入ったと聞いたけど」

うっ。

「部活動の方は?どんな感じ?」

「そ、それは…」

えぇと…。なんと言ったら良いか…。

…まずは謝罪ですよね。

「…本当にごめんなさい、加那芽兄様…。僕、加那芽兄様と同じように美術部とか…。あるいは、勉強に集中する為に、部活動には参加しないつもりで…入学したのに」

それが…その、色々な運命の悪戯的なもののせいで、何故か全く違う部活に入ることになって…。

…あれは予想外ですよ。誰だって。

誰が予測出来る?…まさか、部活動説明会の直前に、二年生の先輩に突然拉致されて、調理実習室に連れて行かれるなんて。

しかも、そのまま勝手に入部届を出されてしまうなんて…。

…改めて考えてみると、相当強引なことされてますよね。僕。

「加那芽兄様の恥にならないようにと…気をつけていたのに…」

「そんなことを気にする必要はない。電話でも言ったけど…。小羽根は小羽根なんだから。自由に、やりたいことをやれば良いんだよ」

僕の謝罪に対して、加那芽兄様はきっぱりとそうこたえた。

…兄様…。

「私と同じ生き方をなぞることはない。小羽根には、小羽根にしかない良さがあるんだよ」

「僕の…良さ?」

…って、何ですか。

そんなものあります?

「たくさんあるよ。小羽根の良いところは…。…まず、私にとって物凄く可愛い弟で…」

「あぁ、はい。分かりました」

「…聞いて欲しかったな…」

そういうのは良いですから。加那芽兄様の贔屓目ですから。

高校生にもなった弟の、何がそんなに可愛いんだか…。

「…話を戻すけど、小羽根には案外、料理研究部は合ってるんじゃないかな」

「え?」

…何を根拠に?

「屋敷に帰ってきてすぐ、志寿子に見せてもらったよ。…小羽根が作ったというお菓子を」

あっ…。

思い出して、背筋が冷たくなった。