「しばらくは、こっちにいられるんでしょう?」

「そうだね。その予定だよ」

「だったら、今日は早めに休んでください。出張のお話しはまた後日…」

「それは嫌だね」

…え。

折角加那芽兄様を気遣って、早めに休むように勧めたのに。

「小羽根の気遣いはとても嬉しいけどね。うん、とても嬉しいんだけど」

何で2回言ったんですか?

「でも、私は久し振りに、小羽根と一緒にお茶を楽しみたくてね」

「それは…。別に、明日でも良いんじゃ…」

「良くない。私は小羽根とお喋りをするのが楽しみで、それだけを心の支えに、長期の出張に耐えたんだ」

「…」

「小羽根と過ごせる1分1秒を、睡眠なんかで無駄にしたくない。良いかい、小羽根。時間というものは目に見えない黄金の砂粒のようなものだよ。覚えておくと良い」

為になるアドバイスをありがとうございます。

その意見には賛成ですが、休息の時間も黄金のように大切だと思いますよ。僕は。

「小羽根にお土産も買ってきたんだ。帰ってきたら一緒に食べようと思ってね」

「…そうですか…」

「そういう訳だ、小羽根。…さぁ、一緒に中庭に行こうか」

にこっ、と加那芽兄様は微笑んだ。

僕以外には、滅多に見せてくれない加那芽兄様の微笑みである。

…分かりましたよ。そこまで仰るなら。

明日、旅行疲れで倒れても知りませんからね。僕は。