ほ…本物だ。本物の加那芽兄様…。

電話越しじゃなくて、本当に…僕の目の前にいる。

「お帰りなさい…!いつ帰ってきてたんですか?」

「今朝の便で帰ってきたんだよ」 

とのこと。

今朝…!それなのに、今に至るまで全然知らなかった。

「事前に教えてくだされば良かったのに…」

まさか今日帰ってくるなんて思ってなかったから、ついついのんびりして…。

加那芽兄様が帰ってくると知っていたら、部活だって早めに切り上げて戻ってきたのに。

しかし、加那芽兄様は。

「いや、小羽根を驚かせようと思ってね。予想通り驚いてくれたようで嬉しいよ」

「…加那芽兄様の意地悪…」

僕がびっくりして狼狽えるのを見て、楽しんでませんか?

…でも、今はこんなやり取りも、何処か懐かしくて嬉しかった。

まさか加那芽兄様が戻ってきてくださるなんて。こんなに嬉しいサプライズはない。

「…帰ってきてくれて嬉しいです。加那芽兄様…」

「そうだね。私も、また小羽根に会えて嬉しいよ。…はい」

…はいって何ですか?

加那芽兄様は、何やら期待に満ちた表情で両腕を広げた。

「…何の待機ですか」

「抱きついてくれて良いよ。ほら」

「抱きつきませんよ…」

再会のハグのつもりですか。しませんよ。

「子供じゃないんですから…」

「そんな…。少し前まで、私が出掛ける時と帰ってくる時は、いつも私に抱きついて挨拶してくれたのに…」

「い…いつの話ですか、それは…」

それは、その…そういうこともあったかもしれませんが。

何年も前の話でしょう。

さすがに高校生にもなって、ハグの挨拶なんてしません。

「恥ずかしがることはないよ、小羽根。海外ではお互いにハグし合っての挨拶は普通だ。家族のみならず、友人同士でも抱き合って挨拶する。従って私と小羽根も、」

「しません」

「…」

そんな露骨に残念そうな顔しないでくださいよ。

「…昔は可愛かったんだけどな…。いや、今も可愛いけど…。これが流行りの…ツンデレという奴か…。それはそれで悪くない…」

何をぶつぶつ呟いてるんですか。

それよりも。

「加那芽兄様」

「『ツン』の時に塩対応をすることによって、『デレ』の時のギャップに心を揺らされ…」

「加那芽兄様。聞いてください」

勝手に自分の世界に入らないでください。戻ってきてくださいよ。

「どうしたんだい?小羽根」

「どうしたじゃなくて…。今朝、戻られたんでしょう?お疲れじゃないんですか」

「あぁ…。まぁ、疲れてないと言えば嘘になるけど…」

「だったら、僕のことは良いので、先にお休みになってください」

僕が帰ってくるのを、わざわざ待っていてくれたんでしょう?

その気持ちは嬉しいけど、僕のことは気にせず、疲れているなら休んで欲しい。