あぁ…。止められなかった。

二人の反応が怖くて、思わず目を逸らしてしまった。

「もぐもぐ」

「ふむ…これはまた…」

…二人共、はっきり言って良いんですよ。

「…済みません。美味しくないですよね…?あの…ティラミスだけどうぞ…」

「?何で?」

「何でって…。クッキーもカップケーキも、ちょっと失敗して、あんまり美味しくないので…」

「別にそんなことないけど」

ひょいぱく、とクッキーを口に放り込む久留衣先輩。

ちょ、やめてくださいって。

「だ、駄目ですって」

「良いじゃないですか。何が駄目なんですか?」

とか言いながら、弦木先輩もカップケーキを食べていた。

あぁ…もう、知りませんよ。「何これ美味しくない」と思っても。

「…美味しくないでしょう?」

「?別に…。ちょっと甘さ控えめですね」

甘さ控えめと言えば、そりゃ聞こえは良いですけど。

控えめどころか、全く甘くないじゃないですか。

「他のスイーツが甘みの強いものばかりなので、口直しに丁度良いと思いますよ」

非常にポジティブな解釈。

しかも。

「…うん。そんなに悪くないじゃないか」

パティシエの佐乱先輩までもが、僕の作ったクッキーを摘みながらそう言った。

嘘でしょう…?あんな上手なレアチーズケーキや、お洒落なフルーツタルトを作れる人が…。

「初めてなんだろう?お菓子作り」

「そ、そうですけど…」

「だったら、充分及第点だろ。俺だって最初は、今の小羽根以上に下手くそだったぞ」

「そ…そんな…」

「昔の俺にに比べりゃ、お前は才能があるよ」

…あ、ありがとうございます…。

お世辞だとしても、佐乱先輩にそう言ってもらえると、少しは救いになる。

「ティラミスはめっちゃ美味いしなー。これイケるわ」

ティラミスをもぐもぐと頬張る、天方部長。

「ほらな。まほろもああ言ってる。あんまり自分を卑下するなよ」

「…ありがとうございます、佐乱先輩…」

「それにな、お前は失敗したと言うが、普通に食べられるだけ、こいつらの作る『料理』よりは遥かに美味い」

佐乱先輩は、他の三人の先輩を指で差した。

…確かに。

「…そうですね。物凄く納得しました」

「おい、後輩君?さっきまでの謙虚さはどうした?何で冷めた目でこっち見んの!?」

いえ。そういえば、佐乱先輩以外の三人に、「料理が下手くそ」と思われる筋合いないなって思って。

途端に元気が出ましたよ。ありがとうございます。