しかし、ここまで来て引っ込めることも出来ないので。

渋々出す。

「えぇっと…。…これです…」

「おぉー…。おー…?」

何で疑問形になるんですか。

「どうぞ、笑いたかったら笑ってください…」

佐乱先輩の完璧過ぎるケーキとビスコッティに比べたら、まさに月とスッポン。雲泥の差。

クッキーは歪な形だし、カップケーキも焼成中に生地が溢れて、液だれしたみたいになってる。

素人感丸出しですよ。まぁ素人だから当たり前なんですけど。

「別に笑うところは何もないですけど…。小羽根さんの努力を感じますね」

弦木先輩、オブラートに包んでくれてありがとうございます。

もっとはっきり言って良いですよ。

「李優さんに比べたら下手くそですねw」とか。

…そもそも、こんな予定じゃなかったんですよ。

どう考えたっておかしいじゃないですか。

「…何で先輩方は、手作りのお菓子じゃないんですか…?」

料理研究部の部員として、お菓子を手作りして持ち寄ろうという企画じゃなかったんですか。

僕はてっきりそうだと思って、頑張ってレシピを調べて、日曜日返上してキッチンに立っていたのに。

何で僕と佐乱先輩以外、全員買ってきた市販のスイーツなんですか?

「え?手作りお菓子を持って来いなんて、一言も言ってなくね?」

「そ…!それはそうですけど…」

「…何だか後輩君、変な誤解しちゃった感じ?」

「…」

…絶句。

そ、そんな…。僕の苦労って一体…。

「あなた達は…本当に料理研究部なんですか…?」

「そう言われましても…。料理を研究する部活なのであって、料理を作る部活とは言ってませんからね」

屁理屈。

「なんかごめんな?変な誤解させちゃったみたいで」

「…良いんです。僕の確認不足です…」

そういえば、確かに天方部長は、「三種類のスイーツを用意してくるように」とは言ったけど。

「三種類のスイーツを作ってくるように」とは言わなかった。

勝手に「手作りでなければいけない」と誤解した僕が馬鹿だった。

…そういうことにしておきますよ。

「今度から、僕…天方部長の言うことはあんまり信用しないことにします」

「後輩君が辛辣!」

こんな赤っ恥をかかされたら、誰だってそうなりますよ。

どうしてくれるんですか。

僕のカッチカチのクッキーや、味無しカップケーキの立つ瀬がない。

天方部長が持ってきた、ふ菓子にも劣りますよ。

…それなのに。

「良いじゃない、折角作ってきてくれたんだから。食べようよ」

「そうですね。折角小羽根さんが頑張って作ったんですし」

「あっ…」

それ不味いから、食べないでくださいと止める前に。

久留衣先輩と弦木先輩は、僕の作ったお菓子を口にした。