「びすこって?」

きょとん、と首を傾げる久留衣先輩。

「ビスコッティ。ナッツとかドライフルーツを入れて、二度焼きした硬いビスケットだよ」

「ほぇー。美味しそう」

本当に、美味しそうですね。

加那芽兄様とのティータイムで、僕も食べたことがありますよ。

そのままでも美味しいけど、コーヒーやココアに浸けて食べたら、二度美味しい。

「チーズケーキもタルトも柔らかいし、ちょっと食感を変えてみようと思ってな」

「わーい。美味しそう」

「あ、こら」

早速、久留衣先輩がビスコッティを摘み食い。

ザクッザクッ、と心地良い咀嚼音が聞こえてくる。

「ふぉぉ、美味しい。李優、これ美味しいよ」

「そうか。そりゃ良かった」

手作りのお菓子を彼女に「美味しい」と言ってもらえたら、誰でも嬉しいでしょうね。

それは良いんだけど…。それは凄く良いんだけども…。

…もう、このままスイーツビュッフェ開催しませんか?

「よし、それじゃ最後に後輩君。持ってきたお菓子を出してもらおうか」

ひぇっ…。

この流れでアレを出すなんて…。冗談じゃないですよ。

寄りにもよって、佐乱先輩の後だなんて。

こんな素晴らしい手作りお菓子を披露されたばかりなのに、僕が作った残念なお菓子を見たら、誰だって幻滅不可避。

あぁ…こんなことなら、誰よりも先に、一番最初に出しておけば良かった…。

…と言うか。

この時点で、今朝までの僕の予想…想像と全然違ってるんですけど…?

出来れば全てをなかったことにして、今すぐこの部屋から逃げ帰りたかったが。

先輩達にじっと見られている状況では、とてもではないが逃げられなかった。

…出すしかないってことですね。分かりましたよ。

こうなったら、もうどうとでもなれ。

「…僕も…自分で…手作りのお菓子を作ってきたんですけど…」

「え、マジ?」

マジ?じゃないですよ。

そういう意味で「スイーツを用意しろ」って言ったんじゃなかったんですか?

「一つはこの間作ったティラミスを…」

「あぁ。イタリアンの時の…。あの美味しかった奴ですね」

「で、もう二つは?」

「…チョコチップクッキーと、カップケーキを…」

我ながら消え入りそうな声だった。

「やったー。萌音、チョコチップクッキー大好き」

そうですか。それは良かったですね。

でも、忘れないでくださいね。このチョコチップクッキーはパティシエのあなたの彼氏じゃなく。

料理ド素人の僕が作ったものなので。

そんなに期待されても困りますよ。

「カップケーキですか。美味しそうですね」

弦木先輩まで。やめてください。

さっき見せてもらった佐乱先輩作のスイーツに比べて、僕のそれはあまりに貧弱過ぎて。

見せるのが、物凄く恥ずかしい。