他の三人の先輩が、市販のお菓子を買ってくるという、ある種のズルをしているにも関わらず。

佐乱先輩は、料理研究部の副部長らしく、自分で作ったお菓子を持ってきたそうだ。

…天方部長、佐乱先輩に部長の座を譲るべきなのでは?

「わー。美味しそう」

久留衣先輩は、目をキラキラさせてレアチーズケーキを見つめていた。

うん。あのレアチーズケーキは本当に美味しそうですよ。

ケーキ屋のケーキと言われても、全然分からないと思う。

家庭で作れるレベルじゃないですよ。

「李優、こっちのケーキボックスは?」

「あぁ。こっちは俺がよく作る…。お前の好きなタルトだよ」

もう一つのケーキボックスを開けると、今度は、中からフルーツいっぱいのタルトが出てきた。

こちらも、まるでプロの一品。

いちご、ぶどう、メロン、さくらんぼ、パイナップルやブルーベリーなど、様々なフルーツが宝石のようにデコレーションされ。

真ん中に、お洒落なチョコプレートが飾られていた。

す、凄い…。これも、もしかして…。

「これも…佐乱先輩の手作りなんですか?」

「あぁ。まぁな」

やっぱり。

佐乱先輩…。真剣に、パティシエを目指すべきなのでは?

このタルト、このままケーキ屋さんのショーケースに並べられても、全く違和感ないと思いますよ。

むしろ、そこらのケーキ屋さんのタルトよりお洒落なのでは?

僕も加那芽兄様に、様々なケーキやタルトを買ってきてもらったことがあるけど。

これほどお洒落なフルーツタルトを、かつて見たことがあっただろうか?

「さ、佐乱先輩…。一人で作ったんですか?」

「ん?そうだけど」

「ひぇっ…。つ、作るの…大変じゃなかったですか?」

こんなお洒落なタルトを…それに、レアチーズケーキも…。

全部、自分一人で作るなんて。大変な労力だったことだろう。

しかし、佐乱先輩は。

「そりゃ大変だけど。これ作ったら萌音が喜ぶからな…」

あっ、そういう…。

「いつもありがとう、李優。萌音、李優のこと大好きだよ」

嬉しそうに微笑む久留衣先輩。

…のろけ、ありがとうございました。

こっちまで恥ずかしくなってくる。

「ひゅーひゅー!お熱いねぇ。ひゅーひゅー!」

天方部長、茶化さないでください。

「李優さん、こっちは?」

弦木先輩が、茶色い紙袋を指差して尋ねた。

あ、そうだ。もう一つあったんだった…。

正直、レアチーズケーキとフルーツタルトだけがあまりにも立派だから、もうこれだけで充分な気もするけど…。

「あぁ、これな…。チョコ味のビスコッティだよ」

そう言って、佐乱先輩は茶色い紙袋を開けた。

すると、香ばしいナッツの香りと、ココアの香りが漂ってきた。

凄く美味しそうな匂いだ。