ぶ…ブラックみたらし団子…?

それに、『ブラック・カフェ』って…。

「あ、聞いたことある。SNSでバズってるアレだろ?メニューも店内も全部真っ黒の喫茶店があるって」

と、天方部長。

なんと。部長は知ってたんですか。

SNS…全然やってないから、全然知らない…。

メニューも店内も、全部が真っ黒の喫茶店…。

成程、それでこのみたらし団子も真っ黒なんですね。

…その喫茶店、お客さん来るんだろうか。

とてもじゃないけど、そんな不気味なカフェに入る気にはなれない…。

「そうです。開店前から大行列で、苦労したんですよ?」

弦木先輩が、大げさな口調で言った。

まさか。そんな珍妙な喫茶店が、開店前から大行列?

僕が知らないだけで、巷では結構な有名店、人気店なのかもしれない。

…そんな喫茶店が人気店だなんて、世も末…。

あっ、そんなこと言ったら、経営者やお客さんに失礼ですよね。ごめんなさい…。

偏見を抜きにしたら、意外と面白い場所なのかもしれない。

それにしても…この黒いみたらし団子…。

…これ、本当に食べられるんだろうか?

そもそも、どうやってみたらし団子を黒くしたんだろう。

着色料…?黒い着色料を入れたんだろうか?

それとも、黒ごま味…とか?イカスミ味とか?

…黒ごまはともかく、イカスミ味のみたらし団子って美味しいの?

謎は深まるばかりである。

「ちなみに、俺はこの一種類しか用意してません。これだけでも結構お高かったですし、手に入れるのに苦労したので」

三種類のスイーツを用意するように言われていたが、弦木先輩は黒みたらし団子の一種類しか持ってきていないらしい。

えっ…そんなのアリなんですか?

「そうか…。許す!」

天方部長も。許すんですか?

「やっべ、嬉しい。『ブラック・カフェ』のブラックメニュー、一回食べてみたかったんだよね〜」

それどころか、黒みたらし団子に興味津々の天方部長。

そ、そんな…。 

僕が呆然としていると。

「ねぇねぇ、みたらし団子も良いけど、萌音は李優のお菓子が食べたい」

ちょいちょい、と佐乱先輩の服の裾を、久留衣先輩が引っ張った。

おねだりの仕方があざとい。

「はいはい…。ちょっと待ってくれ。今出すから」

可愛らしい恋人のおねだりに負けて、佐乱先輩はテーブルの上に、持ってきたスイーツを置いた。

それを見て、早速圧倒された。

立派なケーキボックスが二つも。

それから、茶色い紙のラッピングバッグが一つ。

「李優、それなぁに?」

「こっちは、レアチーズケーキ」

言いながら、佐乱先輩は一つ目のケーキボックスを開けた。

中から出てきたのは、黒みたらし団子とは対照的な、真っ白の大きなケーキ。

そのレアチーズケーキの上に、ベリーをたっぷり入れた赤紫色のソースがかかっていた。

凄い。まるでケーキ屋さんのレアチーズケーキみたいだ。

「え、えぇと…佐乱先輩も、ケーキ屋さんで買ってきたんですか…?」

念の為に尋ねてみると、佐乱先輩は小さく頭を振った。

「いや、自分で作ったものだよ」

…やっぱり。なんてことだ。

佐乱先輩は、不正はしていなかった。