…気を取り直して、いざ、調理を始めた。

細かい調理過程については省くが、調理中、何度となく志寿子さんが厨房に様子を見に来て。

気づいたら、志寿子さんが厨房の入口に張り付くようにして、じっとこちらを見つめていて。

危うく、手に持っていたハンドミキサーを落っことすところだった。 

逆に危ないんで、監視するのやめてもらって良いですか。

自分の信用のなさに、涙が出そうである。

小さな子供じゃないんだから、一人でキッチンに立つくらい、もっと気楽に見守って欲しいものだが…。

「…あの小さかった小羽根坊ちゃまが…。お一人で台所に立っていらっしゃるなんて…!」

…なんか呟いてる声が聞こえてきますし。

台所に立ったくらいで、成長を感じないでください。

「そうだ、写真を撮って加那芽坊ちゃまにお見せしなくては…」

カメラを構え出す始末。

写真なんて撮らなくて良いですから。やめてください。

あぁ、集中が途切れる…。

「…あのー…。志寿子さん…」

「はいっ。どうしましたか小羽根坊ちゃま。お手伝いしましょうか?」

いえ、お手伝いじゃなくて。

「見られてると集中出来ないんで…。ちょっと静かに…いえ、一人にしてもらっても良いですか…」

「あぁ、はいはいそうですよね!分かりました…。じゃあまた5分後に見に来ますね」

「…」

…見に来なくて良いんですけど。と言いたかったが。

去り際、志寿子さんはついでとばかりに、パシャッとエプロン姿の僕をカメラに収め。

そのまま、笑顔で手を振って去っていった。

…静かにはなりましたけど、何だろう。この複雑な気持ち。