すると、そこに。

「…?小羽根坊ちゃま?こんなところにいらっしゃったんですか?」

「あ、志寿子さん…」

使用人の志寿子さんが、怪訝そうな顔で厨房に入ってきた。

そして、エプロン姿の僕を見て愕然とした。

「…!小羽根坊ちゃま、何をなさろうとしているのですか…!?」

「え、えっと…。…ちょっと、その…」

これには…やむにやまれぬ事情があって…。

…まさか、明日学校でスイーツビュッフェを開催する予定なんです、とも言えず。

「学校の…部活動の一環で、お菓子作りをすることになって…」

しどろもどろしながら、何とかそう説明した。

「小羽根坊ちゃまが厨房に入られるなんて…!そのようなことは、私や、屋敷の料理人にお任せください」

そ、それじゃあ意味がないんですよ。

あくまで、自分で作ったものでなければ。

みっともないじゃないですか。皆自作のお菓子を持ってくるのに、僕だけ他人に作ってもらうなんて。

宿題を親にやってもらうようなものだ。

「大丈夫です。その…自分でやるので」

「ですが…」

「心配しないでください」

「…」

ここまで言っても、志寿子さんは心配そうな顔。

…僕、そこまで信用ないですか?

普段厨房に立ったこともない人間が、いきなり一人でお菓子作りなんて無謀だ、と思っているのかもしれない。

確かに無謀だと思いますけど、ここで手を借りてしまったら意味がない。

「…分かりました。そこまで仰るなら…」

ようやく分かってくれたようだ。

ありがとうございます。

「でも、もし何か困ったことがあったら、いつでも声をかけてくださいね」

「はい、分かりました」

「コンロやオーブンには充分気をつけて。あ、天板を触る時も気をつけてくださいね。オーブンに入れたら熱くなりますからね」

「大丈夫です。分かってますから」

「それから…あっ。調味料とか調理器具とか、場所が分からなかったらいつでも聞いてくださいね」

「…分かりました」

「それから、包丁!包丁には充分気をつけてくださいね。包丁を使う時は猫の手を心がけて。使わない時はテーブルに放置したりしないで、きちんと片付けてくださいね。うっかり落としたりしたら大変なので」

「…はい…」

「あっ、オーブンの使い方が分からなかったらいつでも聞いてくださいね。お皿洗いはしなくて結構ですよ。私がやるので」

「…」

…さすがに閉口ですよ。

僕、そこまで信用ないんですか?

「くれぐれも気をつけて。くれぐれも怪我をしないようにお願いしますよ!」

「…分かってますって…」

高校生にもなって、これ。

何だか情けなくなってきたんですけど。僕の気の所為ですか?