「それより、小羽根さんも遠慮せずにどうぞ」

弦木先輩が、僕にスプーンを手渡してくれた。

「あ、ありがとうございます…」

…嬉しいけど、食べる勇気が。

調理過程が…なかなかスリリングと言うか、あまり食欲をそそられなかったので…。

…でも、皆で作ったのに、食べない訳にはいきませんよね。

それに何より、先輩達の苦労を無駄にしてはならない。

特に、リカバリーに尽力した佐乱先輩の苦労を。

「じゃあ、いただきます」

それじゃあ早速…。…チーズとサラミのピザからいただきます。

恐る恐る、そうっと口にしたが。

「どうです?俺の特製ピザ。美味しいでしょう?」

と、何故か自慢げなピザ担当、弦木先輩。

「はい、あの…。…意外と美味しいですね」

「ちょっと。意外とって何ですか」

あ、済みません。つい本音が。

生地がちょっと…ボソボソしてるような気がしなくもないけど。

濃厚なチーズの味わいと、市販のピザソースの安定の美味しさが、全てを誤魔化してくれている…気がする。

チーズは偉大である。

少なくとも、入部初日の、あのゲテモノパイナップルピザに比べたら、とても美味しい。

「ピザも良いけど、こっちも食べてみてよ。ペペロンチーノ」

「え、えぇっと…」

「ペペロンチーノじゃなくて、それはカルボナーラだけどな」

…ですよね。

久留衣先輩に勧められ、僕は久留衣先輩担当のペペロンチーノ…もとい。

カルボナーラを、フォークで巻いて食べてみた。

こちらは、見た目は至って普通のカルボナーラ…に見えるけど。

「どう?美味しい?」

「そ、そうですね…。まぁ、食べられないほどではない…かな…」

ギリギリセーフ…ってところでしょうか。

何だか油っぽいような、それからやけににんにく臭い気もするけれど。

それらを抜きにしたら、まだ何とか食べられる範疇だと思う。

ニンニクとオリーブオイルというペペロンチーノ要素がなかったら、もっと美味しかったかな。

「後輩君。部長のリゾットも食べてみてくれよ」

今度は、天方部長がシーフードリゾットを僕の目の前に置いた。

うっ…。変な匂い。

チーズの濃厚な香りと…シーフードの生臭さが、絶妙にマッチしてますね…。

さすがの佐乱先輩でも、下処理していないシーフードのリカバリーは限度があったようだ。

当たり前である。

でも、天方部長が頑張って作ったんだし…。

リゾットだけは要りません、とも言えず…。

「じゃあ、その…いただきます…」

「おう、どうぞどうぞ」

リゾットをスプーンで一口分、すくって食べてみたが…。

「…うぇ」

「あ、やっぱ駄目かー」

このシーフードリゾットだけは、残念ながら許容出来る味ではなかった。