そんな訳で。

僕が残った生地を焼き、李優先輩が余った材料を巻いて、特製クレープを作ってくれた。

…あんことキャラメルソース、そして冷凍フルーツを巻いた、謎の特製クレープを。

「不思議な味がするけど、これはこれで美味いな」

「萌音は普通に美味しいよ」

「…そうですね…」

僕もいただきましたが、これはこれで美味しいです。

あんことキャラメルソースの甘さが、疲れた身体に効きますね。

今日食べたものの中で、一番美味しいかも。

分からないものですね。

こんな不思議なクレープが、美味しいなんて。

「いやぁ。後輩君を自由研究部に勧誘して、本当に良かったよ」

クレープにパクつきながら、不意にまほろ部長がそう口にした。

「どうしたんですか、いきなり…」

そんな改まって。

「え?だって、去年の今頃は、お客さんが全然来なくて暇を持て余したなぁって」

「嫌なことを思い出させるなよ…」

…言ってましたね。そんなこと。

「それが見てみろよ。今年は。活動記録冊子も全部ハケたし、クレープも売り切れたし」

「まぁ、活動記録冊子の方は、その辺のゴミ箱に捨てられててもおかしくないですけどね」

「こら、唱君!悲しいことを言うんじゃない」

その可能性は大いにありますが、せめて一読してから捨ててくれたと信じたいですね。

折角加那芽兄様が頑張って手伝って、作ってくれたものなので。

せめて一回くらいは読んでください。

読んだ後、鍋敷きにしても良いですから。

「それもこれも、後輩君が自由研究部に来てくれたお陰だよ。どうもありがとう」

「い、いえ…。そんな…」

「無理矢理拉致って良かったなー」

「…」

…そういえば最初に会った時、僕を無理矢理拉致しましたよね。

あれから、よくもまぁ律儀に自由研究部に…って、あの時は料理研究部でしたけど…。

色んな部活に様変わりしながらも、先輩達に付き合ってきたものだと、我ながら思います。

「これからも宜しく頼むよ、後輩君」

「宜しくねー、小羽根君」

「はい…。宜しくお願いします」

望んで入った部活ではなかったとはいえ。

今となっては、良かったと思ってますよ。僕も。

昔、加那芽兄様の書斎で読んだ本を思い出す。

人生万事塞翁が馬、っていうのは、こういう時のことを言うんでしょうね。きっと。