今朝、僕がパシリに、いや、お使いに行くまでは。

加那芽兄様以外、お客さん誰もいなかったじゃないですか。

閑古鳥が鳴いてたでしょう。ぴよぴよと。こけこっこーと。

それなのに、戻ってきてみたら、あの大盛況。

…一体何があったのか。

しかし、唱先輩の返事は。

「それはこっちの台詞ですよ」

え?

「一体何があったら、拡散希望の発信一つで、こんな短期間であれほどの客を集められるのか…。俺が聞きたいですよ。あなたのお兄さん、何者なんです?」

そ、それは…。

無悪家の…次期当主様なんですが。

「ど、どういう…」

「ほら、これ」

唱先輩が、自分のスマホを見せてくれた。

SNSのアプリを開いている。

そこには、加那芽兄様が先程投稿したらしい書き込みと、『メルヘン・クレープ』の写真が。

「拡散希望のこのツイートが、望み通り拡散されて、彼をフォローしていた多くの著名人がそれをリツイートしたことにより、その著名人をフォローしていた一般市民の目に入って、さらにリツイートを重ね…」

「…」

「あっという間に多数の人間に知れ渡って、こうして大量の客が集まる事態になったそうですよ」

「…」

…SNS、恐るべし。

まさか、たった一つのコメントと写真で…ここまでの事態を引き起こすなんて。

と言うか、その引き金を引いたのが我が兄だという事実が、一番恐ろしいですよ。

加那芽兄様…あなた、もしかして分かっててSNSに投稿しました?

僕達が、お客さんがちっとも来なくて暇そうだから、気を遣って…?

加那芽兄様…恐ろしい人…!

「まったく、とんでもない目に遭いましたよ」

「す、す…済みません…」

「いえ、別に謝らなくて良いですよ。お陰で儲かったのは事実ですし」

そ、そうですけど。

限度ってものがあるじゃないですか。皆さんに大変な思いをさせてしまった。 

「いやぁ、自分は結構楽しかったけどな。去年と違ってめちゃくちゃ人来てくれたし!」

と言って、まほろ部長は楽しげだった。

「まぁな。あんなに苦労して練習したんだし、客が全然来ないよりは、売れ過ぎる方がよっぽど良い」

「萌音も楽しかったよ。本物のクレープ屋さんになったみたいで」

李優先輩…萌音先輩も。

…ありがとうございます。

「あー腹減った。ホルモン焼きそば、冷めちゃってるけどたーべよっと」

まほろ部長は、冷めたホルモン焼きそばを威勢良く啜った。

が。

「辛ぁぁっ!?」

「あ、済みません…」

そういえば、パシリの腹いせに激辛ソースかけてもらったんだった。忘れてた。

もう遠い昔の出来事のような気がしますね。