材料切れによる閉店により、ようやく、『メルヘン・クレープ』に群がっていたお客さん達が去っていった。
 
蜘蛛の子を散らすよう、とはこのことである。

同時に、僕は張り詰めていた糸が切れたように脱力した。

「はー…」

…疲れた。

思わず、その場にへなへなと座り込んでしまった。

ずっと立ちっぱなし、動きっぱなしだったから…。身体がもう…。

「お疲れさん、小羽根。大丈夫か」

そんな僕を、李優先輩が労い、支えてくれた。

「あ…ありがとうございます…。李優先輩も、手首大丈夫ですか…」

李優先輩も動きっぱなしだったし、腱鞘炎が悪化してしまったんじゃ。

「大丈夫だよ。ありがとうな、気ぃ遣ってくれて」

「…!ズルい。李優、萌音も。萌音も疲れた」

李優先輩に労って欲しい萌音先輩が、その場にべたー、と座り込んだ。

「はいはい、分かった分かった。萌音もお疲れさん」

「わーい。お疲れ様」

萌音先輩、ご満悦。

なんとも微笑ましいやり取りだが、あまりに疲れ果てて、そんな二人を見ているだけで精一杯である。

「あー疲れた…。よく覚えてねぇけど、5、6回会計ミスった気がする…」

と、爆弾発言のまほろ部長。

ちょっと。それ間違えたら大変ですよ。

「会計520円のところ、5200円請求したり、52円しか請求しなかったりしたような…」

「52000円じゃなかったんだから、まぁ良しとしましょう」

唱先輩。勝手に良しとしないでください。

52000円って。それもうクレープの値段じゃないですよ。

5200円でも高過ぎるけど。

ともあれ、無事に閉店することが出来て良かった…。

…って。

勝手に、平和に終わらないでくださいよ。まだ大事なことを聞いてない。

「…一体どういうことなんですか?」

「あぁ疲れた…っつーか腹減った!」

「結局、お昼ご飯食べてませんもんね。忙し過ぎて」

「そうだった。小羽根に昼飯買ってきてもらってたんだっけ」

あ、はいそうでしたね。僕ももう忘れてた。

振り向くと、屋台の後ろのテーブルに、僕が買ってきた20本のりんご飴その他が、既に冷めきってしまっていた。

「りんご飴だ。やったー」

萌音先輩、両手にりんご飴を持って、ぺろぺろ舐めていた。

「こら。一本ずつ、一本ずつ食べなさい」

「むしゃむしゃ。ばりばり」

「…お行儀悪っ…」

まぁ、皆さん頑張ったんだし、ちょっとくらい羽目を外しても…。

…って、だから僕の話を無視しないでください。

「どういうことですか、って。聞いてるんだから答えてくださいよ」

「何がですか」

と、冷めたフランクフルトを齧る唱先輩。

冷めてたらあんまり美味しくないですよね、フランクフルト。

「どうしてあんなに…。いきなり、お客さんがたくさん来てたんですか?」

それを聞かないことには、僕は今日という一日を終われない。