その後は、もう、修羅場だった。

「次、注文は?」

「えーと。抹茶と、ツナマヨ。それからチョコバナナが二つ」

「はいこれ、ツナマヨ…って、しまった。マヨ入れ忘れた」

それはただのツナです。

「あー、駄目だ。完全に抹茶パウダーが切れた」

「やっぱり青のりかけます?」

「ちょ、やめろって。済みません、抹茶パウダーがかかってないんですけど、良いですか?その分値下げします」

ただいまから抹茶クレープ、20円ほど値下げします。

「えー、一万円お預かりします…って、五千円札がねぇ!…千円札で返して良いっすか?ついでに五百円玉もないんで、百円玉で…」

お釣りがいっぱい。

「次、注文は?」
 
「抹茶とフルーツミックスと、えーと、イチゴバナナ」

「はいよ、抹茶とフルーツミックス…。…あれ?イチゴバナナなんてメニューあったか?」
 
「あ、ごめん間違えた。イチゴとチョコバナナだ」

萌音先輩。勝手に新メニュー作らないでください。

「よし、ツナマヨ作り直しました…と思ったけど、今度はツナ入れ忘れた」

それはただのマヨです。

マヨクレープです。

「小羽根、クレープ生地はまだか!?」
 
「す、済みません。もうちょっと待ってください…!」

ボウルいっぱいに作ったはずの生地が、もうなくなっている。

またホットケーキミックスに、卵と牛乳を混ぜ合わせて、生地を作らなくては…。

あぁもう、急いでる時に限って、ホットケーキミックスの袋がなかなか開かない。

「やべっ!活動記録冊子の在庫が切れた!」
 
「それは別に良いだろ。多分そんなに読まれてないだろうし」

辛辣。

「チョコアイスも在庫切れですね」

「それも別に良いだろ。バニラアイスがまだあるから、そっちで代用だ」

苦肉の策。

「プラスチックスプーンもなくなりましたよ」

「それも…別に良いだろ。そのまま齧り付いてくれ」

妥協。

「李優。冷凍イチゴも切れちゃったよ」

「それも別によ…良くない。イチゴクレープは品切れだ」

さすがに、イチゴの入ってないイチゴクレープは詐欺です。

残念ですが、イチゴクレープは品切れ。

更に。

「駄目です。抹茶アイスも切れました」

「くっ…!あんこはまだ残ってるのにな。さすがにもう無理か…」

抹茶アイスも、ほぼ同時に品切れ。

それから程なくして。

「ツナ缶、これで最後です」

「ソーセージも終わった。バニラアイスも」

次々と、クレープに必須の材料がなくなっていく。

冷凍フルーツも、ホイップクリームも残り僅か。

クレープ生地の在庫だけは、まだまだ残ってるんですが…。

トッピングする中身がなかったら、生地だけあっても意味がない。

…さすがに、これ以上は無理そうである。

「まほろ部長…。もう…」
 
「あぁ…大変申し訳ないんだが、『メルヘン・クレープ』はこれにて閉店だ」

材料の在庫切れにより、『メルヘン・クレープ』は創立記念祭終了を待たずして、午後2時を前にして閉店となった。

長年(?)のご愛顧、ありがとうございました。