ようやく、先輩達のお使いを終え。

僕は、『メルヘン・クレープ』の屋台に戻ったのだが…。

「ただいま戻りま、」

「押さないでー!はいはい!ちょっと、押さないでって!」

「!?」

そこには、目を疑う光景が広がっていた。

大勢の若いお客さん達が、わらわらと『メルヘン・クレープ』の前に群がっている。

先が見えないほどの、長蛇の列。

な…何なんだろう。これ。

僕は、買ってきた大量のりんご飴とホルモン焼きそば達を抱えて、目をぱちくりとさせていた。

…幻覚見え始めてる?僕…。

すると。

「あ!後輩君がやっと帰ってきた!」

まほろ部長が、人混みの中に立ち尽くしている僕を見つけた。

「ボケーっと立ってないで、早く手伝ってください」

更に、唱先輩に背中をぐいぐいと押され。

半ば無理矢理、屋台の中に連れ込まれた。

そこは、さながら修羅場と化していた。

「次、注文は!?」

「えっとねー、次のお客さんは抹茶二つ。それから、その次のお客さんはソーセージだって」

「また抹茶かよ!抹茶アイスの在庫がやべぇ!あとあんこ!」
 
「抹茶パウダーの在庫も怪しいですよ」

「でも、まだ抹茶の注文増えてるよ」

「…いっそ、青のりでもかけて誤魔化します?」

抹茶パウダーの代わりに、青のりを検討。

バレますって。無理ですよさすがに。

…って言うか、これは何なんですか?

腱鞘炎で手首が痛いはずなのに、李優先輩は必死にガスコンロの前に立ち。

二つのフライパンをほぼ同時に操って、フル稼働でクレープ生地を焼いていた。

更に、その焼いた生地に、萌音先輩と唱先輩が、ホイップクリームやアイスクリームをトッピングして、巻いていた。

その横では、ソーセージを焼いたり、ツナ缶とマヨネーズを和えたりしている。

そしてカウンターでは、まほろ部長が忙しく、注文の受け付けと、お金のやり取りと、活動記録冊子の配布を行っていた。

…何これ。

さっきまでうち、閑古鳥鳴いてましたよね?

僕、戻ってくるお店間違えたかな…。

ぼんやりとそう考えていると、唱先輩に肘をつつかれた。

「ほら。ぼさっとしてないで動いてくださいよ」

「えっ。あっ…は、はい」

何が何だか分からないけど、何はともあれ動かなきゃ。

僕は、咄嗟に李優先輩のもとに向かった。

「李優先輩、手首…大丈夫ですか?僕、代わります」

「おぉ、悪いな…。ちょっと、また手首が痛くなってきたところなんだ」

駄目ですよ。折角治りかけてきたところだったのに。

また腱鞘炎が悪化してしまう。

すぐに李優先輩と代わって、僕はクレープ生地を焼き始めた。

何だか、よく分からないけど。

とにかく僕、生地を焼けば良いんですよね?