「おぉっと、そうだ。忘れるところだった」 

と言って、まほろ部長は、無料配布の活動記録冊子を一部、加那芽兄様に差し出した。

「これ、我が部の今年の活動記録です。クレープ買ってくれた人に一部ずつプレゼントしてるので、どうぞ」

「ありがとう。…って、これ私が編集したものだけど」

ですよね。

その節はありがとうございました。

「…それで加那芽兄様、この後はどうするんですか?」

「え?」

加那芽兄様は、クレープを手にしたまま、くるりとこちらを向いた。

加那芽兄様にとっては、久し振りの母校訪問。
 
「折角久し振りの母校だし、ゆっくり…」

「いや。私小羽根にしか興味ないから」

「…」

…母校ですよ?自分の。

もっと他に、言うことはないんですか。

「あぁ、でも、うん。そうだね。かつての恩師達に挨拶くらいはしておこうかな」

おっ。

そうそう。そういうのですよ。

「えぇ、是非そうしてください。きっと懐かしい顔触れに、」

「私の可愛い弟に、くれぐれも粗相がないようにって、釘を刺しておかないとね」

「…」

…加那芽兄様。

あなたは、学校の教師達を恫喝でもするつもりですか。

「昔からいた教師はともかく、最近入ってきたばかりの教師は、私のことを知らないだろうからね…。この世には逆らってはいけない者がいることを、教えておかないと」

クレープを片手に、とんでもなく怖ろしいことを呟く加那芽兄様であった。

「それじゃ、私はそろそろ行くね」

「加那芽兄様…あの…。容赦ってものを…」

「頑張ってね、小羽根。ネコ耳可愛かったよー」

ひらひら、と手を振って去っていく加那芽兄様。

…この日以来、先生方が僕に対して、心なしか余所余所しくなったのは、言うまでもない。

…あと、もうネコ耳のことは忘れてください。