「らっしゃい!安いよ安いよー!何処ぞの流行遅れパフェより遥かに美味くて安いよ!買ってって!」

まほろ部長、ここぞとばかりに営業トーク。

気持ちは分かりますが、よそのお店の悪口を言うのはやめましょう。

…それから、このお客さんは。

「…加那芽兄様…」

学校OBでもある、僕の兄。

加那芽兄様であった。

「え、マジ?後輩君の兄貴?」

「は、はい…」

「『frontier』のチケットとか、ルトリアきゅんのアクスタをくれた、あの神様みたいな兄貴?」

「…神様ではありませんが、僕の兄です」

「やったぜ!ここで会ったが百年目!」

は?

まほろ部長は身を乗り出して、加那芽兄様の両手をしっかりと掴んだ。

「あざす!いっつもお世話になってます!」

「あぁ。君、天方まほろ君だね。小羽根を部活に誘ったっていう」

「そう、それです!いつぞやは『frontier』のライブチケットをあざました!」

「いやいや、良いんだよ。こちらこそ、小羽根と仲良くしてくれてありがとう」

何故か、和やかにお喋りをしている。

…それにしても、加那芽兄様がここに来るなんて…。

「加那芽兄様…。今日はどうしたんですか?母校訪問ですか」

「うん?いや。小羽根に会いに来た」

えっ。僕?

「随分と可愛い格好をしてるね」

ふふふ、と微笑む加那芽兄様。

その時、僕は気づいた。

自分が今、ピンクのエプロンに、ネコ耳カチューシャまでつけていることを。

あまりの恥ずかしさに、僕は急いでネコ耳カチューシャを取り外した。

「外さなくても良いじゃない。似合ってるんだから」

「に、似合ってないですっ…」

…見られてしまった。

寄りにもよって、加那芽兄様に…。

「クレープだけじゃなくて、小羽根も一緒に売ってくれないかな」

「おぉ。良いっすよ、喜んで」

ちょ、まほろ部長。何を。

「でも、ウチの後輩君は高く付きますよ?」

「へぇ?いくらかな」

「そうだなー。…2000円くらい?」

え?意外と安くないです?

「小羽根の為なら2億でも2兆円でも、いくらでも工面するよ」

「…あのですね、加那芽兄様…。ふざけるのはやめてください」

お金で買われませんよ。僕は。

200円だろうと2000円だろうと。

「それより、ご注文は?」

クレープ、買いに来てくれたんですよね。

「そうだな…。おすすめのメニューは?」

「と言っても、7種類しかないですが…。…加那芽兄様なら、抹茶味はどうですか?」

「じゃ、それでお願い。…あ、小羽根が焼いてくれるというオプション付きで」

「はいどうもー。じゃ、オプション付きで2500円、」

「嘘です。そんなオプションはありません。500円です」

こんなつまんないことで儲けようとしないでください。まったく。