それから更に、一時間経ったのだが。

現状、お客さんの数、ゼロ。
 
さすがに危機感を覚えてきた。

最初は「暇だなー。これ材料全部余るんじゃねw」とか言って、草を生やしていたまほろ部長だったが。

「…」

今では、むっつりと能面みたいな顔をして無言。ご覧の通り。

唱先輩も、相変わらず鼻にティッシュを詰め込んだ状態で、一言も発していない。

…これはヤバいですね。

まさか、ここまでお客さんが誰も来ないとは。

いえ、惜しいところまでは行ったんですよ。何度か。

耳を澄ませていると、何度かこんな会話が聞こえてきた。

「あ、見て。クレープ屋さんだって。美味しそう」

「本当だ。…でも、さっきパフェ食べたばっかりで、お腹いっぱいだよ」

「私も。…残念だけど、クレープは諦めよっか」

「そうだね」

…とか。

「クレープ屋があるよ」

「え、何処?」

「ほら、あの…ピンクのエプロンつけた店員さんがいる…」

「うわ、本当だ。…変なかっこ…」

「鼻にティッシュ詰めてる店員までいる」

「ネコ耳までつけてるし…。怪しいから、近づくのやめておこうか」

「うん。やめておこう」

…とか。

「へぇ、クレープか…。どう?」

「えー?クレープなんてやめておこうよ。これからパフェ食べるのに」

「だよねー。クレープなら、屋台じゃなくても普通のお店でいつでも食べられるし」

「そうそう。今日しか食べられないものを食べようよ」

…とか。

「うわ、見て。ネコ耳に、ピンクエプロンつけてる人がいる」

「ほんとだ。似合ってねーw」

…とか。

「クレープ屋があるよ。…全然、誰も並んでないけど」

「美味しくないんじゃない?そんなこと良いから、早くパフェ食べに行こうよ」

…とか。

彼らに悪気はないんだろうけど、そんな会話を何度も聞いていると。

段々、心が痛くなってくる。

「…原因の5割くらいは、このネコ耳とピンクエプロンのような気がするんですけど」

これ、やっぱり脱ぎません?

「人を格好で差別するもんじゃねぇ」

「それはそうですが…」

「むしろ、変な格好してる方が美味しいクレープ作ってくれそうだろ…!?」

「…」

それは苦しいですよ。まほろ部長。

って言うか、自分でも「変な格好」って認めちゃってるし…。

…すると、唱先輩が。

「それより気になるのは、パフェですね」

と、言った。

…それ、僕も気になってました。