「それにしても、全然お客さんが来ないのはおかしいような気がしますね」

鼻にティッシュを詰め込んだ唱先輩が言った。

「やっぱり、こんな頭がメルヘンな格好してるから…。お客さんが近づきにくいんですよ」

「言うねぇ、後輩君…。良いじゃん別に。このくらいメルヘンな方が、美味しいクレープを作りそうだろ?」

…それはどうでしょうね。

メルヘンなのは格好と店名だけで、クレープのメニューは普通なんですよね…。

おまけに、僕未だに、10回に一回くらいはちょっと失敗するし…。

「だが、これほど人が来ないのはさすがにキツいな」

折角注文した材料が、残らず無駄になりますよ。

毎日練習した日々が、あの努力は何だったのかと虚しくなる。

「こうしちゃいられねぇ。よし、偵察だ」

まほろ部長が、すっくと立ち上がった。

は?偵察?

「萌音ちゃん、李優君。君達に偵察任務を命じる」

「てーさつ?」

「何で俺達が…」

当然の反応ですよ。

しかし、まほろ部長は。

「大事なことだぞこれは。このまま自分らの店に、客が一人も来なかったらどうするんだよ!」

…それは切ないですね。

「お客達が何処で何やって、何を買って食べてんのか、偵察してきてくれ」

「…意味あんのかねぇ、それ…」

「良いから、早く早く!」

「はいはい、分かったよ。…行くぞ、萌音」

「わーい。行くー」

李優先輩は萌音先輩を連れて、早速偵察任務に出た。

果たして本当に意味があるのか分からないが、残された僕達は、店番をしながら二人が偵察から帰ってくるのを待つことにした。