「この間のアイスクリーム屋って…。アレか…」

覚えがあるらしい李優先輩。

そうですよね。一緒に行ったんだから。

「アイスクリームショップ『メルヘン・スイート』っていう…。やたらメルヘンなアイスクリーム屋だったよ」

「そ、そうですか…」

「そういや…そこの店員がメルヘンなエプロンをつけてるの、萌音が目ぇキラキラさせながら見てたっけ…」

きっとその時から、憧れを抱いていたんでしょうね。

で、敢えて同じようなデザインのエプロンをチョイスし。

ネコ耳までつけて、人数分用意したと…。

…僕は、普通のエプロンが良かったな…。

「そんな訳だから、今日の自分らのクレープ屋、店名は『メルヘン・クレープ』にしたぞ」

と、まほろ部長は胸を張って教えてくれた。

何が「そんな訳だから」なんですか。

このメルヘンな制服に相応しい、メルヘンな店名ですね。

そこは…普通に、「自由研究部のクレープ屋さん」とかで良いじゃないですか…。

「ほらほら、李優も早く早くー。エプロン」

「ちょ、分かった。分かったって…。着れば良いんだろ、着れば…」

普段は常識人なのに、恋人である萌音先輩にせがまれると、途端に弱くなる李優先輩。

諦めて、ピンクエプロンとネコ耳カチューシャをつけていた。

李優先輩…。あなたなら、もっと抵抗してくれると思ったんですが…。

「わー。李優もとっても似合うよ」

「全然嬉しくない褒め言葉だな…」

「萌音とお揃いだねー。えへへ」

「そ、そうか…」

嬉しそうにはしゃぐ萌音先輩を見て、ちょっと満更でもなさそうな李優先輩。

…李優先輩。あなた、意外とチョロいんですね。

一緒に抵抗してくれるって、期待していた僕が馬鹿でした。

「さぁ後輩君。あとは君だけだぞ」

「大人しく、同調圧力に屈してください」

「う、うぅ…。…パワハラだ…」

まほろ部長がネコ耳カチューシャを、唱先輩がピンクエプロンを手に迫ってきた。

「大丈夫だ。後輩君、君もきっと似合うって」

「嬉しくないですよ…そんなもの似合ったって…」

「皆でお揃い。嬉しいねー」

「済まんな、小羽根…。萌音の我儘に付き合ってやってくれないか」

萌音先輩…それに、李優先輩まで。

僕に、同調圧力に屈しろと迫ってくる。

ズルいですよ。そんな風に言われたら…断るに断れないじゃないですか。

こうして、僕は渋々ながら、陥落したのだった。