そんな加那芽兄様のことは、素直に尊敬しますけど。

僕の為にありがとうございます、とも思いますけど。

「…でも、クレープは自分で焼きますよ」

「そうか…。それは残念だよ」

職人も雇いませんし、加那芽兄様の手伝いも借りません。

自分達で頑張ります。

「なら、活動記録冊子作りを手伝わせてくれるかな」

「それは助かりますけど…。でも、また出版社に依頼して…とか言うんじゃないですよね」

駄目ですよ。そんなルール違反。

いくら学校が許してくれたとしても、僕が自分を許せませんから。

すると。

「出版社に依頼…したいところだけど、小羽根が頑なに嫌がるからね…」

「当たり前じゃないですか」

「なら、私が手伝うのはどう?」

えっ…加那芽兄様が?

「表紙の絵とか、ページのレイアウトとか。そういう事務作業を手伝ってあげるよ。それなら良いでしょう?」

何が良いんですか?

「そ…そんな…。悪いですよ。そんなの…」

「何で?誰がやったかなんて分からないよ。学校側は」

「それはそうですけど…。でも、加那芽兄様だって忙しいのに」

「小羽根の為の労働なんて、労働のうちに入らないよ」

…入りますよ。

「それに、既に添削作業は手伝ってるからね。今更でしょう」

「…そういえばそうでしたね」

勝手に僕の部屋に入り込んで、添削作業したんでしたっけ。

僕が頼んでのことではないとはいえ、既に手伝ってもらっている以上。

今更、手伝ってもらうことに躊躇する必要はないのかもしれない。

けども。

「けじめってものが大切じゃないですか?家族に手伝ってもらうなんて、そんな…」

「バレなければ良いと思うけど。それに、君の部活仲間は、小羽根の家族に手伝ってもらったら怒るの?」

「えっ…。い、いえ…」

想像してみる。

先輩達に、「作業が終わりそうにないので、兄に手伝ってもらって良いですか?」と聞いたら、なんて言うか。

…駄目、とは言わない気がする。

「怒りはしない…と思いますけど…」

「じゃ、良いんじゃないの?私が手伝っても」

簡単に言いますね…相変わらず。

…でも、この状況だと、猫の手も借りたいのが正直なところ。

贅沢言ってられる状況じゃないのかも。

「…分かりました。明日、まほろ部長達に聞いてみます。それでもし手伝ってもらって良いってことだったら、加那芽兄様に頼みますね」

「そう。それで良いんだよ小羽根。遠慮なくお兄ちゃんに頼ると良い。ふふふふ」

…何ですか、その笑顔は。