か、加那芽兄様…。そんな風に僕を追い詰めるとは…。

「ひ…卑怯ですよ」

「ふっ、何とでも言うと良い。小羽根を守る為なら、私はどんな屁理屈でも理屈にしてみせるよ」

…あの時のことを言われると、僕も強く出られないじゃないですか。

「今度は、創立記念祭前日に倒れて、当日はベッドから起き上がれない…なんてことにも」

「うっ…。い、嫌なこと言わないでくださいよ…」

「でも、有り得ない話じゃないと思わない?」

…確かに。と思ってしまった自分がいる。

僕は不器用だからな…。人様に提供出来るクレープが焼けるようになるまで、毎日、たくさん練習しないといけないだろう。

加えて、活動記録冊子作りも並行して続けなければならない。

果たして、僕は創立記念祭当日までに、この2つの大仕事を達成することが出来るだろうか…?

…ちょっと、自信なくなってきた。

すると。

「そこで、小羽根には切れるカードがある訳だよ」

「…何ですか?カードって」

「私だ」

えっ?

「本当は、クレープ作りの方を手伝ってあげたいけど…。残念ながら、部外者に過ぎない私は、当日のクレープ作りを手伝ってあげるのは難しいだろう」

「それは、さすがに無理ですよ…」

いくら、加那芽兄様が学校OBと言えども。

しかも、加那芽兄様が在学中は、自由研究部なんてなかったんでしょう?

しかし。

「いや、あながち無理ではないよ。在校中から、学院理事長や学院長達に、色々と恩を売っておいたからね」

えっ?

「いざとなれば、彼らを好きなように動かすコネは作ってある」

「な…何で?いつの間に…?」

「いやぁ。小羽根が将来私の母校に通うことになった時に、色々と便宜を図ることが出来るようにと思って」

「…」

「実際、こうして小羽根は今、私の母校に通ってる訳だから。当時の布石が役に立って良かったね」

にこっ、と微笑む加那芽兄様。

まだ高校生だった時、加那芽兄様は、当時まだ幼かった僕が将来、自分と同じ高校に通うことになるかもしれないと考え。

その時、学校のお偉方にあれこれと便宜を図ってもらえるよう、いくつも貸しを作り、恩を売っておいたと…。

…信じられます?

「あらゆる可能性を考慮して、将来自分が有利に事を運べるように、布石を打っておくこと。これが世渡りの秘訣だよ、小羽根」

「…それ、僕がもし別の学校に行ってたらどうしたんですか?」

無駄になりますよね。その布石。

偶然、僕が加那芽兄様と同じ高校に合格出来たから、無駄にならなかったというだけで…。

「うん?小羽根は昔から頭が良かったから、私の母校くらい簡単に受かると思ってたよ」

それは買い被り過ぎです。

「布石っていうのは、実際にいつか役に立つか否かは関係ない。いざって時の保険でありさえすれば、それで良いんだ」

「…」

「それに、今こうして役に立ってるから、無駄じゃなかったしね」

それが、加那芽兄様流の処世術ですか。

高校生だった時から、加那芽兄様の才覚というものが伺える。