僕は、丁寧に軟膏が塗られた自分の指を見た。

こんな…過保護なことをしたって…。

加那芽兄様には悪いですが、無駄なんですよね。

「…申し訳ないですけど、僕、多分似たような火傷をすると思いますよ」

「えっ。何で!?」

いや、そんな。何でって言われても…。

それは、僕のクレープ作りの習熟度の問題なんですが…。

「明日も練習するので…クレープ作りの…」

事情は、さっき説明しましたよね。

「小羽根、君は頑張り過ぎなんだよ。活動記録冊子も、君が作ってるんでしょう?」

「あ、はい…それは…」

「小羽根が眠ってる間に、こっそり添削、修正はしておいたけど。あれだってまだ完成してないのに…その上、クレープ作りまで…」

加那芽兄様。今、さらっとなんて言いました?

僕が寝てる間に…え?

完成した文章を自分で読み返して添削したところ、誤字も脱字もまったく見つからなかったから、変だなーと思ってたら…。

「何でも自分でやろうとする真面目なところは、小羽根の良いところだけど。でも、何でも背負い過ぎるのは良くないと思うよ」

「そうですか。加那芽兄様の良くないところは、僕の寝室に勝手に侵入するところですね」

「それにね、小羽根。心配することはないんだよ。クレープ作りの問題なら、私が解決してあげよう」

ちょっと。何事もなかったみたいに聞き流さないでくださいよ。

僕、今大事なこと言ったんですからね。

「…解決って、どうやって?」

もしかして、クレープ作りのコツを伝授、

「創立記念祭の当日だけ、クレープ職人を2、3人雇ってあげるよ。その人達に任せれば、小羽根は何もしなくても良くな、」

「お断りします」

「何で!?」

…何で、じゃないんですよ。

僕の方こそ、何でそんな発想を思いつくのか聞きたいです。

「大丈夫だよ。日雇い職人達の給料は、私のポケットマネーから支払うから。小羽根は何も心配しなくて良いんだよ」

「そうじゃありませんよ。学校の創立記念祭なんですから、生徒である僕達が自分でやるのは当然でしょう」

たかが学校の文化祭の屋台の為に、一日駆り出されてクレープを作らされる職人さん達が気の毒でならない。

「そんな…。人に頼らず自分の力で…。…小羽根…君はなんて良い子なんだ…」

「…当たり前のことですよ…」

他の部活の皆さんだって、そうしてるんですからね。

僕だけが特別、責任感が強い訳じゃありません。

「それじゃあせめて、やっぱり活動記録冊子は出版社に依頼して…」

「それも僕がやります」

「出来るの?」

え?

出来るの、って…それは…。

「クレープ作りの練習…。それに、活動記録冊子作りまで…。並行して、同時に作業出来るの?それで間に合うの?」

「そ、それは…」

改めてそう問われると…自信がなくなってきた。

…切羽詰まった結果、両方中途半端に…って事態になりかねないのが怖いところ。

「な、何とかしますよ。大丈夫…」

「こういう時の小羽根の『大丈夫』は信用出来ないね。小羽根は何かに夢中になると、無謀な計画を立てて、意地でもそれを達成しようとする悪い癖がある」

「い…言い掛かりですよ。僕には、そんな癖…」

「へぇ?小羽根は頭が良いのに、もう忘れちゃったのかな?…全国模試の時」

「うっ…」

無謀な勉強計画を立て、見事に体調を崩したあの時のことを思い出し。

僕は、一気に形勢が不利になった。