「世界戦闘力がびっくりするくらい高くてね、これは強敵だと思って、連戦させてもらったの」

「あぁ。VIPマッチと言えども、あの萌音とタイマン張れる強敵が存在するとは思わなかったよ」

専門用語がたくさん出てきて、僕にはさっぱり分からないんですが。

「…萌音先輩ってそんなに凄いんですか?」

「萌音ちゃんは、スマシスにおいて神だぞ。自分なんか足元にも及ばない」

まほろ部長でさえ、真顔でそう言った。

そ、そうなんですか?

ゲーム上手いんですね、萌音先輩…。意外な特技だ。

偏見かもしれないけど、ゲームは女性より男性の方が上手いという印象があった。

「野良であんな強敵とマッチング出来たのは、本当に奇跡だよ。向こうもそう思ったのか、朝まで連戦に付き合ってくれたんだー」

「は、はぁ…」

「『ゆうりくん 1ごう』っていう名前の人だったんだけど」

凄い名前ですね。1号…?

「1号ってことは、2号もいるんですかね…」

「あぁ。チーム対戦で2号とも戦ったが、2号は…」

「強かったですか?」

「何もしてないのに、虚空にジャンプと弱Aを繰り返して、その後崖から落ちてった」

…??

突然の奇行。

「あまりにも挙動がおかしいから、ラグか切断を疑ったんだが…」

「ラグはないはずだよ。こっちは有線だし…。1号とのタイマンでは全然ラグなかったから」

「だよな…。ハンデのつもりだったのかな…?あるいは…陽動…?でも、それでストック落としたら意味ないしな…」

「それとも、単純に初心者だったのかなー」

済みません。僕は全然話についていけてないんですが。

専門用語やめてください。意味不明です。

「思わず白熱しちゃって、李優と一緒に朝までスマシスしちゃった」

テヘペロ、と言わんばかり。

…テヘペロじゃないんですよ…。

それで腱鞘炎になったら世話ないじゃないですか…。

「萌音先輩の方は…腱鞘炎は大丈夫なんですか?」

「え?萌音は元気だよー」

萌音先輩は、元気に手首をぐるぐる回し、何度かぱんぱんと手を叩いた。

萌音先輩…強いですね、手首…。

「その代わり、寝不足が辛いな」

ふわぁぁ、と大あくび。

それは自業自得なので、今夜はぐっすり寝てください。

…ともあれ。

「…それで、皆さんはさっきから、何やってるんですか?」

僕は、携帯ガスコンロを指差した。

そこには、コゲコゲの平べったい物体が、フライパンにへばりついていた。

…何これ?

「何って…。クレープ作りの練習」

「え?」

「李優君に頼れなくなったから、自分らが代わりにクレープを焼かなきゃいけないだろ?だから、さっきから皆で練習してんの」

「…」

ガスコンロの脇には、大皿が置いてあって。

さっきまで先輩方が練習していた、クレープの生地…の、成れの果てが、こんもりと山になっていた。

…これがクレープですか。成程。

…絶望的ですね。