まさか。そんな。

「クレープにトッピングしたり、くるくる巻くのは誰でも出来るけど。ちゃんと生地を焼けるのは自分しかいないだろうからって」

「それで…ずっと練習してたんですか…?」

「うん」

…そんな。

たかがクレープ生地くらいで?と思ったそこのあなた。

今すぐ台所に立って、そこそこ大きいフライパンを使って、クレープ生地を何枚も焼いてみると良い。

それも、続けて何日も。

一回にかかる時間と労力はそれほどでもないかもしれないけど、何日も続けていれば話は別。

そりゃ手首を痛めもしますよ。

李優先輩は責任感の強い人だから、本番で失敗してはならないと、僕らに内緒で練習を重ねたのだろう。

しかし、その無理な練習が祟って、こんなことに…。

「そんな…言ってくださいよ、李優先輩…。僕達だって練習したのに…」

一人で背負い込まなくても、少しくらい他の部員達に任せてくれれば。

練習のし過ぎで手首を痛めてしまったんじゃ、本末転倒じゃないですか。

「僕は不器用だから、頼りないかもしれないですけど…でも、李優先輩に無理させるくらいなら…」

「いや…。違うんだ、ありがとうな。小羽根…」

李優先輩は、首を横に振って否定した。

え?違うって何が。

「確かに、毎日クレープを焼く練習をしてたのは事実なんだが…。…実は、腱鞘炎のトドメは別のことで…」

「え?トドメ?」

「昨夜、ずっとゲームしてたそうですよ。格闘ゲーム」

唱先輩が、ジトッ、と李優先輩を睨んだ。

…は?格闘ゲーム?

「『スマシス』って格闘ゲーム知ってます?腱鞘炎の申し子なんですけど」

「す…すま、しす…?」

何それ?

「済みません、僕ゲームは詳しくないもので…」

「ゲームやらなさそうですもんね、小羽根さん。全国の老若男女の親指と手首を痛める危険なゲームです」

どうしてそんなゲームが、世に蔓延ってるんですか。

それほど危険なゲームなら、政府が規制するべきなのでは?

「それを一晩中、萌音さんに付き合って一緒にプレイしてたそうですよ。それが腱鞘炎の引き金です」

「…ゲームやってて腱鞘炎になったんですか?李優先輩…」

「…そんな目で見ないでくれよ…」

いえ、別に。軽蔑している訳では。

僕はゲームをやらないから知らないけど、界隈では結構よくあることなんですかね。

僕はゲームわやらないから知らないけど。

「あのね小羽根君。李優を責めないであげて。李優は悪くないんだよ」

李優先輩の形勢が悪くなった途端、萌音先輩が庇いに入った。

「萌音が李優に、一緒にやろーって言ったんだよ。それに本当は、一時間くらいで終わるつもりだったんだよ」

「それが、どうして朝まで続いたんですか…?」

「オンラインで遊んでたら、偶然凄く強い対戦相手とマッチングしたの」

…オンライン?マッチング?

何それ?