僕の活動記録冊子作りも、そこそこ順調なペースで進み。

メニュー作りや、クレープの材料、必要な道具の貸し出し手続きなどを、並行して進め。

創立記念祭の準備は、順調に進んでいるかのように思われた。

しかし。

ここで、突然大変なトラブルに見舞われてしまう。

その日僕が、放課後に部室に向かうと。

そこは、既に阿鼻叫喚の様相を呈していた。






「うぉぉぉー!火力!火力!ファイアー!」

「ちょ、馬鹿!火が強過ぎる!」

「おかしいですね、これ。何でこんなビリビリのコゲコゲになるんでしょう」

「ちゃんと油を引かないからだろ」

「クレープの生地って美味しいねー」

「こら、萌音!それ、ナマの生地をそのまま舐めるんじゃない!」

先輩方が、携帯ガスコンロの前で。

フライパン片手に、何やら大わらわ。

…えーと。何だか危険な香りがするので、僕は退散しても良いだろうか。

「…失礼します」

危機を察知して、くるり、と踵を返したが。

そこで、まほろ部長に捕まった。

「あ!後輩君だ。やっと後輩君が来たぞ。我らの新しい希望の光!」

…逃げ切れなかった。

呼び止められてしまったら、無視して逃げ帰ることは出来なかった。

…何ですか。新しい希望の光って…。

それより。

「…何やってるんですか…?」

今日もいつも通り、創立記念祭の準備を進めるんじゃなかったんですか。

今日は材料の発注用紙に記入して提出するって、昨日そう言って…。

「それが、大変なことになったんだって」

「え?大変なことってな、えっ!?」

その時、僕は気づいた。

李優先輩の右手。

李優先輩は、右手の手首から手のひらにかけて、黒いサポーターのようなものをつけていた。

「ど…。どうしたんですか?李優先輩。それ…」

「…あぁ…これな…」

李優先輩は暗い顔で、左手でサポーターをそっと撫でた。

「李優、腱鞘炎になっちゃったんだって」

と、萌音先輩が教えてくれた。

けっ…腱鞘炎…!?

僕はなったことないですけど、指や手首を酷使すると発症するという、手首の炎症ですよね。

「大丈夫なんですか…?」

「あぁ…。動かさなければ大丈夫だ」

それってつまり、動かしたら痛いってことですよね?

当たり前だ。腱鞘炎なんだから。

「でも…どうして、いきなりそんなことに…」

昨日まではしてませんでしたよね、そんなサポーター。

腱鞘炎って、そんなにいきなりなるものなんですか?

「いや…あの、それは…」

李優先輩は、そっぽを向いて視線を彷徨わせていた。

…どうしたんですか。何か言いにくいことでも…?

「李優ね、ここ何日もずっと、クレープ作る練習してたの」

言葉を濁らせる李優先輩の代わりに、萌音先輩が教えてくれた。