どうしてそんな発想になるんですか。加那芽兄様は。

そりゃ、出版社の方々に作ってもらったら、さぞや立派な冊子になると思いますけど。

「冊子は無料配布なんですよ。依頼料なんて払えないんですからね」

「良いんだよ、お金なんて別に。その為に普段から恩を売ってるんだから。私の名前を出せば、喜んで引き受けてくれ、」

「権力の濫用はやめてください」

しなくて良いですよ、そんなこと。

僕が作ります。

「小羽根…なんて真面目な良い子なんだ…」

「…普通のことですよ…」

「でも、そうしたら私とのティータイムは…?」

「…」

…なしになりますね。

来週くらいに延期してもらえませんかね。

「…仕方ない。よし、分かった。それならこうしよう」

加那芽兄様は、再度ぱちんと指を鳴らした。

「…何ですか」

またろくでもないことの予感。

だったが。

「私も手伝うよ」

「えっ」

…それは、ちょっと予想外でした。

そう来たか、って感じ…。

「でも…加那芽兄様は自由研究部の部員じゃないですから。無理です」

「良いじゃない、そんな細かいこと気にしないで」

気にしますよ。当たり前じゃないですか。

「珍しく、無悪家を継ぐ者として後身にアドバイスしよう。時には思考を柔軟にして、上手く楽をして息抜きをするのも処世術の一つだと思うよ」

「有益なアドバイスをありがとうございます。でも『処世術』という言い訳をして仕事を他人に押し付けるのは違うと思います」

「小羽根…!君、もしかして私より無悪家当主の才能があるのでは…!?」

…そんな訳ないじゃないですか。

もう、加那芽兄様は…。こうして、たまにとんでもないことを言い出すんだから。

「分かった、分かりました…。お茶なら後で付き合いますから…」

「本当?やった。諦めないものだね」

ぐっ、と親指を立てる加那芽兄様。

まったくもう…と。

呆れて苦笑いしていられたのは、この頃までだった。