「勉強なんてやめよう。勉強なんてやめて、私と一緒に遊ぼう」

「…遊びませんよ…」

「…何で?」

…そんな真剣な顔して聞かれても。

「小羽根…私のこと嫌いになった…?」

「な、なる訳ないじゃないですか…。違いますよ」

「そうだよね、良かった…。小羽根に嫌われたら、私は一生涙で枕を濡らさなきゃいけないところだった」

そ、そんな大袈裟な…。

「だから、話を聞いてくださいって。今日、僕忙しいんです」

「…何に?それって私とのティータイムより大事なこと…?」

「い、いや…それは…」

そう言われると…ちょっと自信がなくなりますけど。

こればかりは僕が頑張らないといけないことですから。

「創立記念祭の準備です」

「え」

「創立記念祭の準備。もうすぐなんです」

加那芽兄様だって御自分の母校だったんだから、当然覚えているでしょう。

加那芽兄様は、しばしぽかんとして考え。

「あー…。創立記念祭…そういやそんなものあったな…」

「…覚えててくださいよ…」

母校じゃないですか。

そんなどうでも良さそうに。

そりゃ、卒業した学校のイベントなんて、今更どうでも良いかもしれませんけど。

「小羽根は何するの?」

「あ、えぇと…一応、屋台を出すんですけど…それと一緒に、一年間の部活の活動記録を書いて、冊子にまとめて配布するつもりなんです」

「冊子に…。成程、小羽根の書いた小説も一緒に載せて?」

「何で加那芽兄様までまほろ部長と同じことを言うんですか。載せませんよ」

誰も彼も。僕の中二病小説のことはもう忘れてください。

何が嬉しくて、ご来場の皆様に恥を晒さなきゃいけないのか。

「僕が、冊子の執筆を頼まれてるんです」

「…小羽根が…」

「そうです。責任を持って引き受けたことなので、僕が頑張らないと」

もう一つの出し物、クレープ屋さんの方は、不器用な僕はあまり手伝えそうにないから。
 
せめて、活動記録冊子作りは僕がやらないと。

「そういうことだったのか…。小羽根はやっぱり良い子だね…。創立記念祭の準備の為に頑張るなんて…」

「そんな…。加那芽兄様だって、在学中は同じように頑張ってたでしょうに」

「そうだったかな?私は面倒事を背負いたくないから、良い感じに他の部員達に任せたような…」

ちょっと。加那芽兄様?

今のは聞かなかったことにしておきますね。

「それにしても、活動記録の冊子作りか…。原稿はもう出来上がってるの?」

「え?あ、はい…大体は。下書きは済ませたので、あとは清書をして…。それから表紙のデザインを考えて…」

「成程、そこまで出来てるなら大丈夫だ」

と言って、加那芽兄様はぱちんと指を鳴らした。

…何が大丈夫なんですか。

「残りの仕事は、私が懇意にしてる出版社に依頼してやってもらおう。その間に小羽根は私とティータイムを、」

「駄目です」

何を言い出すんですか。