クレープの生地って…あれ、どんな風に作られてるんだろう。

小麦粉…と、牛乳を混ぜたりすれば良いんだろうか。

そう思うと結構難しいですよね。小麦粉の分量を計ったりとか…。

ちょっとでも分量を間違えたら、パサパサになったり、上手く焼けなかったりするんでしょう?

「あの…僕、よく知らないんですけど…クレープの生地って、何で出来てるんですか?小麦粉…?」

「そんなに心配そうな顔しなくて良いぞ、小羽根。生地を作ること自体は簡単なんだ。市販のホットケーキミックスに、卵と牛乳を混ぜるだけで良い」

あっ、そうなんですか。

ホットケーキミックス万能説。

ホットケーキミックスって、ホットケーキを作る為だけに存在してると思ってましたけど。

そんなことないんですね。可能性は無限大。

まさかクレープの生地まで作れるとは…。

「でも、それじゃ何が問題なんですか?」

生地の作り方まで分かってるなら、不安に思うことなんて何も…。

「生地の材料を混ぜ合わせるのは簡単だ。アホでも出来る。だが問題は…そのクレープ生地を焼くことだ」

…あっ。

ようやく、李優先輩の言わんとすることが分かった。

「一枚ずつ、あの薄さで破らずに焼き上げるのは、結構難しいぞ」

「…ですよね…」

クレープの醍醐味。あの薄くてもっちりした生地。

中身はともかく、生地が上手く焼けなかったら、それはもう美味しいクレープとは言えない。

「よくクレープ屋では、鉄板の上に生地を流して、細長いヘラみたいなもので丸く仕上げてますよね」

唱先輩が言った。

分かる。見たことありますよ、それ。

「あの鉄板…それにヘラも。僕達も準備しなきゃいけないんでしょうか…」

鉄板は借りてくるとして、あのヘラは何処に売ってるんだろう。

売ってたとしても、果たして僕らに使いこなせるだろうか…?

一気に不安が募る。

まだ開業もしてないのに、前途多難なクレープ屋である。

「萌音が前、李優に食べさせてもらった時は、フライパンで焼いてたよね」

と、萌音先輩。

「あぁ、そうだったな」

「フライパンで出来るんですか…?」

「出来るよ。ただ、結構難しいんだよな…。一回ごとに油を引かないとすぐ破れるし、油を引き過ぎると浮くし…」

そ、そうなんですか。

僕にはさっぱりイメージが湧かないけど、李優先輩には分かってるんですよね。

「一回に入れる生地の分量も、きちんと計ってから入れないと…。生地が厚くなり過ぎたり、逆に薄くなったり…。…まぁ、微調整が色々と大変なんだ」

「…そうですか…」

李優先輩がここまで言うとは…。

李優先輩に出来ないんだったら、料理下手な僕達はもっと無理ですよね。

何だか、一気に出来そうにない気がしてきた。

「…やめます?」

僕は、小声でそっと尋ねた。

撤退する勇気も必要だと思うんですよ。今ならまだ取り返しがつくんだから。

「クレープ屋じゃなくて…別のお店に…」

「マジかよ。やっぱりこはねくんのわたがし屋さんを…」

もうやめてくださいって。そのことは。

「綿菓子じゃなくて良いので、別のお店に…もっと作るのが簡単な…」

萌音先輩には悪いですけど…。

…と、思ったが。