「綿菓子ですか…。本当に可愛いですね」

「綿菓子を、敢えて平仮名でわたがしって書くところが可愛らしいな」

先輩達も何言ってるんですか。

僕は、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になった。

そうですよ。わたがし屋、って書いたのは僕です。

良いかなって思ったんですよ。綿菓子機とザラメがあれば、比較的簡単に出来るかなって思って。

白だけじゃなくて、ピンクとか黄色とか、色付きの綿菓子にしたら、小さい子も喜ぶかと思って。

…そのくらいで喜ぶのは、僕みたいに単純な子供だけでしょうか。

せめてわたがしじゃなくて、綿菓子って漢字で書けば良かった。

「どうするよ後輩君。『こはねくんのわたがしやさん』って名前の綿菓子屋でも開くか?」

「…もうからかうのやめてください」

後輩いじめですよ。

「今度、加那芽兄様から『frontier』のグッズをもらっても、まほろ部長にはあげませんから。まほろ部長に見せつけるだけ見せつけて、僕が持って帰りますから」

「ちょ、冗談、冗談!クレープ屋にする!ちゃんとクレープ屋にするから!」

最初からそう言ってください。

僕に恥をかかせる必要、ありました?

「ところで萌音ちゃん」

「なーに?」

「クレープ屋をやるのは良いけど、クレープってどうやって作るの?」

…確かに。

僕も、クレープ自体は食べたことありますけど。

どうやって作るのかは、知りません。

まほろ部長に聞かれた萌音先輩は、そのまま、くるりと李優先輩の方を向いた。

「…李優。どうやって作るの?」

「…俺に丸投げかよ」

本当に済みません。

「え、えっと…。図書室に行って探してみましょうか?お菓子の作り方みたいな本を見れば、書いてあるかも…」

「はぁ…。ありがとうな小羽根。萌音よりよっぽど計画的だ」

「え、えぇと…」

「でも、心配しなくて良い。去年か一昨年だったかな。萌音にせがまれて、クレープを作ったことがあるんだよ」

えっ。

まさかの経験者。

「そうだよー。李優がクレープ焼いてくれたの。美味しかったんだ」

萌音先輩もそのことを覚えていたから、クレープ屋を提案したのかもしれない。

「クレープの中身は、市販のカットフルーツと生クリーム、カスタードクリーム、それにアイスクリームを入れて巻けば良い」

「惣菜系のクレープは作らない感じですか?」

と、唱先輩が尋ねた。

惣菜系?と一瞬考えたが。

アレか。ツナとかソーセージとか、甘いものじゃなくてしょっぱいものを巻いたクレープ。

僕は甘いものの方が好きだから、もっぱら甘いクレープばかり食べてましたけど。

惣菜系のクレープも、結構美味しいですよね。

おかずクレープ、ってヤツ。

「そうだな…。ソーセージを焼いて、レタスを巻いて…ソースはケチャップとマスタードを混ぜて…」

ぶつぶつ、と呟く李優先輩。

凄い。早速構想が湧いてきたようだ。

プロのシェフですね。

「中身はともかく…問題は、クレープ生地だな」

「…ですね」

クレープにおいて一番大切なのは、中身ではない。

外側のクレープ生地ですよ。

これが上手く出来るかどうかにかかっている。と言っても過言ではない。かもしれない。