早速、天方部長達は、レシピ本を開いて覗き込んだ。

「おぉ、すげぇ!イタリアンのレシピが書いてある!」

「これ、どうしたんですか?小羽根さんの私物ですか」

「あ、はい。そうです」

弦木先輩に聞かれて、僕はこくりと頷いた。

「よくこんなタイミング良く、イタリアンのレシピ本なんて持ってましたね。よく作るんですか?」

「あ、いえ、そうじゃなくて…。えぇと…その、ちょっと、物持ちの良い家なもので…」

まさか、家の中に大きな書庫があって…などとは言えないので。

そう言って、言葉を濁しておいた。

「まぁ、ともあれ助かったじゃないか。これ見ながら作れば良い」

「だな!なぁなぁ、どれにする?どれにするよ。折角だから豪華なメニューにしようぜ!」

「萌音はね、李優の作ったデザート食べたいなー」

「おっ、ピザの作り方も載ってますよ。リベンジでもしますか?」

ピザはもうやめておきましょうよ。

今度こそ、オーブンがぶっ壊れますよ。

良かった。持ってきたレシピ本が活躍しているみたいで。

しかし、その時の僕は失念していた。

加那芽兄様の書庫にあった、そのレシピ本。

実は、よくある「初心者向けの簡単なレシピ」とかじゃなくて。

「上級者向け、本格イタリアン料理のレシピ」だったのである。

そのことに気づいたのは、翌日、早速調理を開始してからのことだった。