しかし、加那芽兄様はお構いなし。

さっさと、僕とお皿を交換してしまった。

あぁっ…。間に合わなかった。

「もぐもぐ…。…ふむ、成程こんな味なのか…」

食べてる。

加那芽兄様が。ビッグMKバーガーを。ナイフとフォークを器用に使って。

…『MKハンバーガー』のメニューでも、上品にナイフとフォークで食べてたら、何だか凄くお高いハンバーガーのように見えるから不思議ですね。

と言うか、加那芽兄様が食べてたら、何でも高級料理に見えます。

「ど…どうですか?」

「安っぽい味で好きじゃない」と言われるかと思ったが。

「え?普通に美味しいよ?」

…平然と、もぐもぐ食べていらっしゃる。

…。

「…本当に美味しいですか?」

「うん。ハンバーガーって滅多に食べたことないんだけど。結構イケるね」

「…」

「付け合わせのポテトも美味しい」

…僕の為に、お世辞で言ってくれてる訳じゃなさそう。

加那芽兄様の舌にも合うとは…。世界の『MKハンバーガー』、さすがです。

「…ありがとうございます、加那芽兄様…」

「礼を言うようなことじゃないよ。私も珍しいものが食べられて嬉しいからね」

あなたは良い人ですね。本当に。

「…ところで、小羽根」

「はい?」

「昨日、『MKハンバーガー』で『frontier』キャンペーンのくじ引きをしたんでしょう?」

「あ、はい…。僕が、じゃなくてまほろ部長が、ですけど…。…覚えてます?まほろ部長…」

ほら、以前『frontier』のライブチケットを譲ってもらった…。

「勿論覚えてるよ。部活のメンバーだけじゃなくて、小羽根の同級生、先輩、学校関係者の顔と名前と素性は、ほとんど記憶してる」

そういうことに無駄な才能を使わなくて良いですから。

忘れてください。

「彼が欲しかったアクリルキーホルダーは、当たったの?」

「それが…16回引いたけど、推しのキーホルダーは当たらなかったみたいです…」

物凄く被ってましたね。まほろ部長が発狂してヤケ食いしてました。

「そうか…。それは残念だったね」

「はい…」

「ちなみに、その推しっていうのは誰?」

「ルトリアさんだそうです」

加那芽兄様、ルトリアさんって知ってましたっけ…と思ったが。

「あぁ。あのボーカルの人か」

さすが。よく知っていらっしゃる。

何なら僕より詳しいのでは?

「じゃあ丁度良かった」

え?

「丁度良かったって、何が…」

「サンプルでもらったものなんだけど、良かったらその部長さんにあげてくれるかな」

と言って、加那芽兄様は。

ポケットから、アクリルキーホルダーを一つ取り出した。

それはなんと、昨日まほろ部長が喉から手が出るほど欲しがっていた。

『frontier』のボーカル、ルトリアさんのアクリルキーホルダーだった。