…やっぱり怒ってるんだろうか?

怒っていながら、許した振りをして、僕の出方を伺っている、とか…?

物凄く怖いので、怒ってるなら怒ってるとはっきり言ってください。

「…あの、加那芽兄様…」

「何?」

「お…怒ってます?」

恐る恐る、僕は尋ねてみた。

「うん、怒ってるよ」と言われたら、僕は今すぐこの場で土下座しよう。

しかし。

「ううん。怒ってないよ」

とのこと。

…。

…本当に…?

「ほ、本当に怒ってないんですか?」

「私が小羽根のすることに怒ったこと、一度でもある?」

「…ないですね…」

ないからこそ怖いんですよ。

ついに、加那芽兄様を怒らせる…その時が来てしまったのかと。

「でも、だって…携帯に…スマホに…物凄い数の着信が…」

恐る恐る、そのことを口にすると。

「あぁ…。電話のこと?ごめんね、公演中に邪魔して…。小羽根が珍しく、今日は遅くなるってメールをしてきたから、ちょっとびっくりしてね」

「ちょっとびっくり」で何百件も電話をかけてくるんですか?

「何回かかけたんだけど、繋がらなかったから、何通かメールを送ったんだよ」

加那芽兄様。あれは「何回」とか、「何通」の次元ではありません。

自分が一体どれほど膨大な数の電話と、膨大な数のメールを送ったか、自覚していないのだろうか。

やっぱり怒ってるんじゃないですか。

「す、済みません…」

「別に謝らなくて良いんだよ。仕方ないよ。コンサートホールではスマホはサイレントマナーか、電源を切るのがマナーだからね」

そうなんです。

お陰で、山のような着信が来ていることにも気づかず…。

…ん?

その時、僕はとあることに気づいて、背筋が冷たくなった。

「か…加那芽兄様…」

「何だい?」

「僕がコンサートホールにいたこと…何で知ってるんですか?」

そういえばさっき、「公演中に」とか言ってましたよね。

まるで、僕が何処で何をしていたのか、知っているかのような口ぶり…。

「『劇団スフィア』っていう劇団なんでしょう?演目は『ルティス帝国英雄伝』」

「…!本当に、何で知ってるんですかっ…!?」

「いや何。大したことはないよ。電話してもメールしても、小羽根がいっこうに返事をしてくれないから…」

そ、それは済みませんって。

「小羽根のスマホのGPSを辿って、居場所を突き止めちゃった」

…加那芽兄様。

そんな、ノートに落書きしちゃった、みたいなノリで。

とんでもないことを言い出さないでください。