シナリオも素晴らしいし、小道具と大道具の出来も一級品。

そして、肝心の役者の演技。

「主人公の俳優さん、凄く上手でしたね」

見たところ、まだ若手の団員さんだった。

演技の節々に、ちょっとした初々しさを感じて。

でもそれは、下手くそだっていう意味じゃない。

むしろその初々しさが、原作の主人公のイメージとぴったり合致していて、まさに名采配って感じ。

「あぁ。あの人な。あの人も最近入団したばっかりなんだけど…」

李優先輩、そんなことまで知ってるんですね。

さすが熱烈な『劇団スフィア』ファン。

「まだまだ演技は拙いけど、劇団の若手俳優の中で、一番将来性を期待されている若手なんだ」

「成程…。確かに、将来性ありそうでしたもんね」

かと思えば、まだ若いのに、まるで熟練の団員のように演技力に優れた俳優さんもいて。

『劇団スフィア』の役者さんの、層の深さと厚さを実感する。

いやー…予想以上でした。

最後のカーテンコールの時なんて、「このまま一生終わらないで!」って思っちゃいましたよ。

終わるのがあまりに勿体なくて。

「凄く面白かったです。李優先輩…僕、感動しました」

「お、おぉ。そうか…顔が泣きそうになってるぞ」

「済みません、ちょっと、涙脆くて…」

「そうか。感動してくれるのは嬉しいが、この場で泣き出さないでくれよ」

す、済みません。目の前で泣かれても困りますよね。

でも、それくらい感動したんです。本当に。

「絶対、また観に来ます。今度は加那芽兄様、あ、いや。兄を誘って一緒に来ます」

「そ、そうか…。気に入ってくれて良かったよ。…外、パンフレット売ってるけど行ってみるか?」

「行きます」

即答。

公演パンフレット買って、加那芽兄様に見せてあげよう。