学校を後にした、僕と李優先輩は。

そのまま駅に向かって、電車に乗った。

そして、二人で今日の公演が行われるというコンサートホールを目指した。

僕はそのコンサートホール、行くのは初めてだったんだけど。

駅での乗り換えも、バスの乗り場も、全部李優先輩が案内してくれた。

僕は、親ガモの跡を追う子ガモのように、ちょこちょことついていった。

バスに乗り込み、座席に二人並んで腰を下ろす。

「よし、バスに間に合ったな…。あとは10分くらいこれに乗って、降りたらすぐだから」

「そうですか。案内、ありがとうございます」

僕一人だったら、間違いなくまだ電車の乗り換え駅で右往左往してましたよ。

「李優先輩、慣れてますね」

「あぁ。何度か行ったことあるからな」

成程。それで慣れてるんだ。

「『劇団スフィア』は全国を回ってる劇団なんだけど、この地方に来る時は、いつもこのコンサートホールなんだ」

「へぇ…。李優先輩、もう常連さんなんですか?」
 
「常連っつーか…。…まぁ、そうだな。何回も観に行ったことがあるし…。俺の唯一の趣味みたいなもんだ」

「唯一…。お菓子作りも趣味なんじゃないんですか?」

確か得意だって、いつも萌音先輩が我が事のように自慢してるじゃないですか。

「あれは趣味…って言うより、萌音にせがまれて作ってるって言うか…」

その割には、上手いって評判じゃないですか。

やっぱり恋人に頼まれると、満更でもないんですかね。

本人にそう指摘したら、照れ臭がって否定しそうですが。

「でも…意外でした。まさか李優先輩の趣味が、演劇観賞だなんて…」

「演劇観賞が趣味なんじゃなくて、『劇団スフィア』が好きなんだよ。俺は」

え。

「じゃあ、他の劇団じゃ駄目なんですか?」

「あぁ。難儀な趣味だろ?」

難儀とは思いませんが。

…ちょっと、変わってるかなぁとは思います。

「よっぽど…なんて言うか、特殊なんですか?その『劇団スフィア』の演劇は…」

物凄く演技が上手いとか?舞台装置が凝ってるとか?

あるいは、好きな俳優さんがいる、とか…。

「特殊…ってほどでもないな。さほど有名な劇団という訳でもないし。現に小羽根も知らなかったし」

それは僕が無知だからです。済みません。

「でも、俺は好きなんだ…。俺、子供の頃凄く貧乏でさ。遊園地とか動物園とか、そういう行楽地に連れて行ってもらったことがなかったんだ。旅行なんて以ての外で」

唐突に、かなり重い話が飛んできましたね。

そうだったんだ…。僕も、実家で母と暮らしていた頃は、似たような境遇でしたが。

無悪家に来てからは、加那芽兄様のお陰で、人並みに…いや、ある意味で人並み以上に家族サービスをしてもらった。

「小学校低学年の遠足の日に、このコンサートホールで、『劇団スフィア』の公演を観たのが、俺にとって初めての『贅沢』だったんだ。それで…まぁ、その時に凄く、感動したわけ」

と、李優先輩は照れ臭そうに笑った。