「興味ないのに無理にとは言わないから、気が進まないなら無理にとは言わないぞ」

「あ、いえ…」

「突然の誘いだしな。無理だったら、俺一人で行くし…。ただ、チケットを余らせちゃ勿体ないと思ってな…」

大抵の場合、そういうチケットって払い戻しが聞きませんもんね。

余らせたら勿体ないというのは、同意。

「プライベートで何度か、劇団公演を観に行ったことはありますから。興味がないことはないですよ。むしろ、好きなくらいです」

「本当か?」

「はい。是非一緒に観に行っても良いですか?」

「良かった。ありがとうな、小羽根」

李優先輩にとっては、僕なんて萌音先輩の代わりは務まらないですけど。

でも、李優先輩が萌音先輩の代わりに僕に声をかけてくれた事実は、素直に嬉しい。

それじゃお言葉に甘えて、ご一緒させてください。

「あ、そうだ。チケット代…。自分の分は、自分で負担します」

「ん?いや、良いよ。こっちが強引に誘ったんだし」

「でも…そんなの悪いです」

劇団のチケットって、安いものじゃないじゃないですか。

いくら萌音先輩の代わりとはいえ、支払うべきものはちゃんと支払います。

でも、李優先輩は。

「本当に良いよ、払わなくて」

「ですが…」

「それより、今日の公演がもし気に入ったら、今度は自分でチケットを取って、また観に行ってみてくれよ」

とのこと。

…この言い様じゃ、無理矢理お金を出しても受け取って貰えそうにないですね。

加那芽兄様がいつもそうだから、分かるんですよ。

でも…李優先輩がここまで言うってことは。

余程おすすめなんですね。『劇団スフィア』。

「分かりました。それじゃ…重ね重ね、お言葉に甘えさせてもらいます」

「あぁ。そうしてくれ」

李優先輩は、朗らかに笑ってそう答えた。

「じゃ、早速出発しよう」

「あ、えぇと。部活は?」

「まほろと唱には話してあるよ」

さすが李優先輩。仕事が早い。

ということは、今日の部活は僕も李優先輩も、萌音先輩もいないから。

まほろ部長と、唱先輩の二人きりですね。

非常に寂しい部活動。

…それにしても…。

「まほろ部長と唱先輩には、声をかけなかったんですか?」

後輩の僕より、付き合いの長いまほろ部長や唱先輩の方が気心も知れて、誘いやすかったのでは?

しかし。

「あぁ。あいつらにも声をかけたんだが」

「…駄目だったんですか?」

「まほろは、『無理。絶対寝ちゃう』とのことだ」

あっ…。

…言いそう。

「唱は、『演目が気に入らない』だとさ」

「そ、そうなんですか…。ちなみに、今日の演目は…?」

「『ルティス帝国英雄伝』なんだが、知ってるか?」

…凄く聞き覚えのある演目ですね。