放課後…この後は、部活動に参加する以外は、特にやることはないけど…。

「…どうしたんですか?一体…」

「あぁ。戸惑うのは当然だよな。説明するよ…。実は、これなんだが」

と言って、李優先輩は一枚のチケットを差し出してきた。

「チケット…ですか?」

映画館のチケット?っていう訳じゃなさそう…。

「あぁ。今夜、観に行こうと思ってる演劇のチケットなんだ」

演劇だって。

何だか…ちょっと、意外。

「『劇団スフィア』って知ってるか?」

「劇団…スフィアですか。済みません、ちょっと…」

「あ、いや。マイナーな部類だから、知らなくても全然問題ない」

済みません。僕、無知で…。

演劇なら、これまでも加那芽兄様に誘われて何度か観たことがあるけれど…。

いずれも、誰でも知ってるような超有名演劇団の作品ばかりだった。

「どうだ?興味ないか?」 

「いえ、そんなことはありませんよ」

加那芽兄様に誘われて何度か観た演劇。

とても面白かったし、もし機会があるなら何度でも行きたいと思っていた。

僕は『劇団スフィア』を知らないけど、チケットが余っているなら、是非観たい。

…でも…。

「何で僕なんですか?」

誘う人、他にもいるでしょう?

特に、李優先輩だったら…。

「萌音先輩は?興味ないって言われたんですか…?」

「あ、いや…そうじゃないんだ」

え?

「俺も本当は今日、萌音と一緒に観に行く予定だったんだ。それで、チケットも二枚取ったんだが…」

「…萌音先輩、ドタキャンですか?」

「あいつ、今日学校休んでんだよ」

はぁ、と溜め息混じりの李優先輩。

萌音先輩、今日お休み?

「え?どうしたんですか?もしかして風邪とか…?」

「違う。胸焼けと胃もたれが酷いんだってさ」

む、胸焼けと胃もたれ。

それはまた…珍しい理由で学校休んでますね…。

居酒屋で暴飲暴食した大人じゃあるまいに…。

「それは心配ですね…」

「自業自得なんだよ。昨日、一緒にドーナツビュッフェに行ったんだ」

ドーナツビュッフェ?食べ放題みたいなアレですか。

ドーナツの食べ放題…初めて聞きました。

でも、スイーツバイキングがあるんだから、ドーナツビュッフェがあっても良いのかも。

「知ってるか?ミセドっていうドーナツショップでやってる食べ放題なんだが」

「有名なドーナツショップですね…。僕は参加したことありませんけど…」

「あいつ、『食べ放題なんだから一番高いのを食べよう』とか言って、生クリームてんこ盛りの、ミラクルデラックスクリームフレンチドーナツを、皿にてんこ盛りにして食べ始めてな…」

う…うわぁ…。

名前からして、重そう。

その名前を聞いただけで、どんなドーナツなのか想像がつきそうですね。