パーティーの翌朝。

目を覚ました僕は、朝食の席に向かった。

するとそこに、加那芽兄様がいて。

珍しく、コーヒーを啜っているところだった。

本当に珍しいな…。いつもなら加那芽兄様は紅茶派なんだけど…。

「あ、加那芽兄様…おはようございます」
 
「おはよう、小羽根」

加那芽兄様は僕の姿を見るなり、にっこりと微笑んだ。
 
…だが、僕は、その顔がいつもよりぎこちないことに気づいていた。

「…お疲れですか?加那芽兄様」

「分かっちゃうか…。さすがにね」

と、苦笑する加那芽兄様。

「さっきおはようって言ったけど、実はおはようじゃないんだ。昨日、一睡もしてなくてね」

えっ。

昨夜のパーティー、加那芽兄様のはからいで、未成年の僕は日付が変わる前に失礼させてもらった。

しかし、加那芽兄様は最後の一人のお客様が帰るまで、接待に明け暮れていた。

お陰で、昨晩は一睡も出来なかったと。 

オールなんですね。加那芽兄様…。

あ、そうか。それで、今朝は紅茶じゃなくてコーヒーなんだ…眠気覚ましの為に…。

コーヒーで眠気覚ましてないで、寝てください。

「そうだったんですね…。お疲れ様でした」

「平気だよ。これもお務めだからね」

加那芽兄様は、ふぅ、と溜め息をついてコーヒーを啜った。

肩でも揉みましょうか。

「それに、今小羽根の顔を見たから元気が出た。やっぱり、どんなエナジードリンクよりコーヒーより、小羽根の顔が一番の元気薬だね」 

「それはただのプラセボ効果ですから。寝てくださいよ…」

「それから、伊玖矢のことだけど…。今朝、一番の飛行機で帰るらしい」

えっ。

「伊玖矢兄様が…?もう出発されるんですか?」

「もう出発しちゃったんだよ。うっかりしてて気づかなかったんだけど…。昨夜、パーティーが終わるなり、すぐ屋敷を出発したらしい」

そんな…。どさくさに紛れて逃げ帰るみたいに…。

「今頃は、もう飛行機に乗ってるだろうね」

加那芽兄様は、腕時計を確認しながら言った。

伊玖矢兄様だって、昨夜のパーティーで疲れていただろうに…。

せめて、一晩ゆっくりしてからお帰りになれば良かったのに…。

まるで、用事が終われば、一秒だってこんなところにはいたくない、とばかりに。

「全然…挨拶も出来ませんでした」

「私もだよ。まったく、一言くらい言ってから帰れば良いのに…」

僕は良いとして、せめて加那芽兄様に、一言くらいは言って欲しかったな…。

伊玖矢兄様が次に戻ってくるのは…また何ヶ月も後ですね。
 
その時までに、少しでも関係を改善出来れば…と、思ったけど。 

この調子では、残念ながらそれは叶いそうになかった。